両国の外交関係断絶の直接の原因はテヘランのサウジ大使館の焼き討ちである。この件については、イラン政府は国際法上、外国公館保護の責任があるので、サウジ側がこの件を不問に付すことはなく、国際問題に疎い今のイランの保守強硬派政権が謝罪するとは思われない。
イエメンでは昨年の4月、国連の仲介でラマダン休戦が成立し、その後何回か延長されているが、10月にフーシ派側が休戦の延長を拒否したため、いつ何時、フーシ派(イラン)の弾道ミサイルとドローンの攻撃が再開されてもおかしくない状況になっている。
その一方で、サウジ側は、これまでの迎撃でパトリオット対空ミサイルのミサイルが不足しており、かつ、米国からの補給も滞っている模様であり、サウジ側は、これまでフーシ派による度重なる弾道ミサイル、ドローンによる攻撃でそれなりの被害が出ているのでミサイル、ドローン攻撃の再開は避けたいのであろう。
しかし、イラン側として見返りにサウジ側から取りたいものがないのではないか。そうは言っても、イラン側もサウジと協議を続けること自体は、国際的な評判を考えて拒否しないであろう。
そして、12月12日、サウジの外相は、「イランが実用可能な核兵器を確保した場合、(中略)あらゆる事態が視野に入る」と述べたと伝えられていることも考慮すると、上記の記事が書く通り、両国関係が改善に向かっているようには見えない。
中国も巻き込んだアラブ・イラン間の領土問題
中国の習近平国家主席がサウジを訪問した際に開催された中国・GCC(湾岸協力理事会)首脳会議の共同声明で、イランとアラブ首長国連邦(UAE)の間で係争中のペルシャ湾の3つの島の領有権問題を取り上げたことについて、12月9日、イラン側は中国に抗議している。
引き続き、イランとペルシャ湾の対岸のGCC諸国との間では緊張が続いている。経済的関心からペルシャ湾諸国との関係強化を図っている中国は、イランとGCCとの間の対立・緊張に巻き込まれた形だ。
なお、3島の領有権問題とは、1971年に英国がスエズ以東から撤退した際、英国のマスカット・オマーン保護地域は、オマーン、UAE、バーレーン、カタールとして独立したが、当時のイランのシャー(皇帝)が英国と取引してバーレーンの領有権を諦める代わりに3島を占領したとされる出来事である。