科学に反する行為
表に示すように、大気圏内核実験により放出されたトリチウム量は桁違いに多い。トリチウムの生物影響は小さいが、それ以外の多量の放射性物質が放出されたため、いまだに高濃度の汚染により定住ができない島がある。
このような歴史から、フォーラムが処理水の海洋放出へ強硬に反対する理由は十分に理解できる。しかし、処理水はフォーラムが懸念する放射性核物質ではない。
放射線量が規制値以下、すなわち通常の水である。フォーラムの専門家がこのような事実を無視して、あたかも高濃度の放射性核物質を海洋投棄するような風評を広げていることは、自然保護とは無縁の科学に反する行為である。
サイエンス誌は自然科学の雑誌である。かつて太平洋地域で核実験を繰り返した米国の雑誌として、その責任を感じることは必要だが、だからといって科学を無視してはいけない。
この論説を書いたデニス・ノーミル氏は同誌の上海寄稿特派員だが、記事を書く時には間違いがないように「裏取り」をすることが常識である。フォーラムの専門家の間違いは調べればすぐに分かるものばかりであるにもかかわらす、間違ったコメントをそのまま記事にすることで、結果的に感情論に基づく非科学的な言説を広めることになった。
長年のサイエンス誌の愛読者として、科学をあからさまに無視した行為に苦言を呈する次第である。