2024年4月27日(土)

教養としての中東情勢

2023年2月12日

大統領選でも窮地に

 エルドアン大統領は地震前から苦境に立たされていた。経済が低迷していたからだ。とりわけ、ウクライナ戦争の影響もあって食料や燃料などの物価の上昇は激しく、インフレ率は57%を超えた。通貨リラも価値が半分ほどに暴落、国民の不満は高まる一方だった。

 エルドアン大統領にとって、選挙までにこうした国民の怒りをなだめるための政策がぜひとも必要だった。インフレの負担を軽減する政策などを検討していたとされる。だが、そうした政策を実施する前に地震が大統領の窮地に追い打ちを掛けることになった。

 最新の世論調査として報じられたところによると、エルドアン氏に対し、野党の候補が1人か2人出馬した場合、第1回目の投票ではいずれも過半数を獲得できず、決戦投票に持ち込まれる公算が強い。決戦投票では、エルドアン氏が得票率で最大20%の大差で惨敗する可能性があるという。

 地元メディアなどによると、野党から出馬が取り沙汰されているのはイマモール・イスタンブール市長とクルチダルオール「共和人民党」党首の2人。有力候補とされるイマモール市長は昨年12月、選挙管理委員を中傷した罪で裁判所から「禁固2年7月」と「政治活動禁止」の判決を受けて控訴中。市長に対する容疑と裁判はエルドアン氏が政敵を排除するために仕掛けたとする見方がもっぱらだ。

 同市長は4年前のイスタンブール市長選で、エルドアン氏の側近を破り当選。これにエルドアン氏の「公正発展党」が不正選挙だと主張したため、やり直し選挙を強いられたが、再投票でもイマモール氏が当選した。エルドアン氏にとってはいわくつきの強敵で、なんとしても大統領選には出馬させたくない人物だ。

 実はエルドアン氏も政権を奪取する前はイスタンブール市長で、憲法に反する演説をしたとして有罪判決を受け、4カ月間収監されたことがある。その後、1999年の大地震の政府の対応を厳しく批判して奇跡的なカムバックを遂げた。イマモール市長のケースはエルドアン氏自身の過去と酷似しており、皮肉な因縁を感じさせる話ではある。

   
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