2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年2月22日

 米国が撃墜した気球に搭載の機器が解析されれば、事態ははっきりしようが、軍事偵察が目的の気球であったことは間違いないであろう。中国は気象学研究が目的の民間の気球だったこと、気球は偏西風に流され、限られた制御能力の故に米国空域に入り込んだもので「不可抗力」だったことを強弁し、2月4日、王毅外相はブリンケン国務長官に、中国は「根拠のない推測や誇大宣伝は受け入れない」と告げている。

 だがそれなら、米国空域に入ることが判明した時点で中国は速やかに米国に所要の通告をすべきであったであろう。事後の弁明は説得性に乏しい。いずれにせよ、気球に米大陸を横断させるようなことをやれば、当然、発見される危険がある訳であり、中国が何故そのような行動に及んだかは不可解ではある。気球の制御が利かなくなったとの中国の言い分は半分本当かも知れない。

思い起こされるU-2撃墜事件

 1960年5月1日、超高度を飛行する米軍の偵察機U-2(ブラックバード)がソ連上空で地対空ミサイルにより撃墜された。空軍パイロットのパワーズは脱出して無事だったことを知らないまま(死亡したとの推測に基づき)、米国は、U-2の任務は気象観測だったとの嘘をでっちあげ事を糊塗しようとした。

 しかし、5月7日になって、ソ連指導者のフルシチョフがパワーズは生存していることを暴露するに及び(パワーズは 米中央情報局<CIA>のスパイ活動に従事していたことを認めた)、当時大統領だったアイゼンハワーは窮地に立つこととなった。

 民主主義国では U-2の活動を知らなかったとしても大統領が責任を免れる訳ではない。結局、5月16日に始まったパリにおける米英仏ソの首脳会談の席上、アイゼンハワーはフルシチョフに対し謝罪はしなかったが、U-2の飛行停止を約束することとなった。謝罪のないことを不満としてフルシチョフは席を立ち、首脳会談は崩壊した。

 中国は気球が気象学研究のためだったと今後も言い張る積りであろうが、習近平にとっては幸いなことに、知っていたにせよ知らなかったにせよ、この一件で責任を問われることにはならないであろう。

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