2月4日付英エコノミスト誌(電子版)は、中国の気球の問題はエスカレートしないであろうが、米中両国はこの種の小さな事件がエスカレートする可能性に備える必要があるという社説を掲げている。
「新たな冷戦は必要ない」とバイデンは11月にバリで習近平に述べた。かくして米中関係には稀な短いデタント(緊張緩和)が始まった。そこに米国上空の中国の気球である。
中国は、気象用の気球で、単にコースを外れたものだと主張したが、米国は偵察気球だと言い、2月4日、大西洋上で撃墜した。予定されていたブリンケン国務長官の訪中は当面なくなった。
米国が自国領空にあった気球を撃墜したのは正しかった。しかし、この事件は両国関係のより広い観点から見る必要がある。
米中間のように敵対関係が激しさを増すと、小さな事件によって関係が制御不能に陥るリスクがある。これを防ぐため、米中両国は、不可避的な事故、誤算、中国の不器用さから、関係を隔離する方法を必要としている。
運が良ければ、今回の気球事件はエスカレートしないだろうが、類似事件はエスカレートし得る。米中の競争は出来る限り調整出来ることが皆の利益になる。両国関係が些細な事件、間違い、誤解によって決定されることを望まないならば、両国首脳はより良い方法を見出す必要がある。
例えば、両軍首脳の間の直接的な通信線を設けること、両国の船舶と航空機の間の安全な相互連絡を可能にする手順を設けることである。中国はそのような合意は軍事オプションを制限する企てと見てより慎重である。
しかし、そのような合意が米ソ冷戦期に敵対関係を封じ込める上で助けになった。米中間の緊張は米ソ間のそれ程には大きくないが、気球の事件を契機として米国と中国はお互いにどう話をするのか工夫すべきである。
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エコノミスト誌は、このところの米中間の緊張緩和に向けた動きを保全することに多大の関心を有するようである。
米国下院の中国特別委員会を脅威とする1月29日付のエコノミスト誌の記事を2月20日付の本連載で紹介したが、それもこういった趣旨であった。この社説も中国の気球の米国空域への侵入を些細な事件だと見ているらしく、そのような些細な事件から米中関係を隔離すべく「ガードレール」を設けることの必要性を説いているが、そのような立論には無理があると思われる。
確かに、戦狼外交は修正されつつあるようであり、「微笑み」も垣間見られるようであるが、気球の一件は中国ないし中国外交の体質が何ら変化していないことの象徴と見るべきものと思われる。
中国の偵察気球を米軍が撃墜したことに中国は強く反発しているが、一方、この事件は共和党と民主党を共に怒らせ、共和党にバイデン政権攻撃の恰好の材料を提供した。事件は今後エスカレートする可能性が排除されない。