2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年3月7日

 EUはインフレ抑制法を特に問題視している。この法は水素、電気自動車用電池から太陽光発電パネルやグリーンな航空燃料など、グリーン・エネルギーへの投資を支援することを主眼としており、このままでは枢要な投資が米国に吸い取られるという強い懸念が語られている。米国だけではない。中国のテクノロジー分野だけでなくその他補助金一般が問題視されている。対抗するEUの産業政策の必要性を説く急先鋒は、この論説にある通りフランスである。

 この論説は、米国や中国の補助金に対抗することを求める強い要求に鑑み、長期的にはEU全体としての産業政策の分野で新たな領域が開かれることになり得ると予想しているが、単一市場の依って立つ公平な競争条件における自由な競争を貴ぶオランダやスウェーデンなどの抵抗は強いであろう。

EUが猿真似をする必要はない?

 そもそも、インフラ抑制法の脅威は誇張されているという見解もある。バイデン政権の動機の一つは中国とのデカップリングであるが、中国以外の選択肢がEUにある限りにおいて、その猿真似をする必要はないと指摘する向きもある。

 当面、EUが検討対象にしている課題の一つは、EUの国家補助のルールを改定・緩和し、産業に対する戦略的支援を可能にすることであり、これには概ねコンセンサスがあるように見えるが、それでも、それは財政の懐が大きいドイツやフランスを利する一方、中小国(財政が厳しいイタリアを含む)は割を食うとの懸念が強い。

 ロシアのウクライナ侵攻後において承認された国家補助の総額6720億ユーロのうちドイツが53%(3560億ユーロ)、フランスが24%(1620億ユーロ)を占める由である。これを補うのはEU全体としての資金援助であるが、フランスの声高な主張にもかかわらず、EU独自の基金(財源はEUによる共通債券の発行による)が実現するようには思えない。

 2月9日のEU首脳会議の結論文書からも、EUの産業政策に対する熱意は伝わってこない。国家補助のルールの改定には言及があるが、EUの資金援助については既存のEU基金の柔軟性の強化などに言及があるに過ぎない。この先、議論がどこに落ち着くのかは見通し難い。

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