2024年4月15日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年3月7日

Tanaonte/Gettyimages

 英フィナンシャル・タイムズ紙の上級貿易ライターのアラン・ビティが、2月9日付の同紙論説‘Europe breaks new ground in backing strategic green industries’で、米バイデン政権のインフレ抑制法に対抗しようとする欧州連合(EU)の状況を描写し、EUは戦略的な「グリーン・テクノロジー」の分野で新たな産業政策の領域を切り開くことになり得ると予想する論説を書いている。要旨は次の通り。

 EU首脳はバイデンのグリーン・テクノロジーに対する大盤振る舞いの欧州版を計画しており、何らかの新たな領域を探求することになろう。域内の競争を増進するというEUの伝統的な役割では、多額の投資を要する将来技術において世界的に支配的な地位を築くには不十分であると心配する首脳が増えている。

 欧州の経済は往々にして高度に規制されている。しかし、国家補助と競争(独占禁止)に関する法の長年にわたる蓄積が、多くの東アジアの諸国やバイデン政権下における米国が採用する国家主導の戦略的投資のモデルのようなものをEUが構築することを阻んできた。

 今日まで、経済学者はこれらの抑制を一般に美徳と考えてきたが、今や、リベラルな経済学者さえも、急速に進むテクノロジーのフロンティアと先行者利益のあるグリーン産業については国家主導の投資の拡大を受け入れている。しかし、EUはそれをファイナンスし使途を方向付ける道具を創設することに苦労している。

 加盟国レベルの国家補助のルールを緩和することには、フランスとドイツが他の加盟国の投資を横取りすることになるとの正当な懸念が提起されている。

 いずれにせよ、国別の産業政策は先見の明のある戦略的思考を必ずしも生まない。フランスは伝統的に個別の企業の支援に焦点を当てて来たが、体系的な実績には乏しい。グリーンへの移行を促進し米国の補助金に対抗すべく、フランスはより広範なアプローチに転換し、EUの国家補助のルールの緩和を支持すると共に戦略的産業を強化するためのEUのファンドを提案している。

 共同のイニシアティブをファイナンスするというアイデア自体、ドイツのような財政保守主義の加盟国では懸念を引き起こす。国境を跨いだサプライチェーンに対処し得る、EU全体としての産業政策を設計することは、過去の哲学や制度との重要な決別を伴うであろう。時間はかかるし抵抗にも遭遇するであろう。しかし、中国のグリーン投資は言うに及ばず、米国の巨大なグリーン投資への対応の強い要求は、多くの新たな分野を切り開き得るはずだ。

*   *   *

 昨年、バイデン政権は、CHIPS法とインフレ抑制法を成立させた。CHIPS法は国内での半導体製造を後押しするために2800億ドルを支出する。インフレ抑制法はグリーン・テクノロジー助成のための10年間で4000億ドルの補助金を含んでいる。

 これらの大規模な法は、議会の承認を得る必要上、中国の脅威への対抗、安全なサプライチェーンの構築、グリーン・エネルギーの推進、製造業の再生など、議員が有する様々な関心事項をバイデン政権が包括的に取り込んだ結果と思われ、新たな産業政策を打ち出すことを当初から目論んでいたわけでもない印象である。

 しかし、EUには、補助金と優遇税制を梃とする政府による干渉主義ないし保護主義の色彩を帯びた革新的な産業政策が大西洋の反対側に出現したと映り、EUはこれを脅威と捉えている。


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