そもそも、フランスのみならず、ドイツやイタリアの立場も、ロシアとの地理的な近接性により、安全保障上の脅威に関する切迫感とエネルギー供給源や市場としての経済関係への期待感という点で、米国や英国とは異なるだろう。
プーチンの権威主義的手法やその政策に強い親近感を持つフランスの極右のルペンや極左のメランションは勿論、中東におけるキリスト教徒の保護に関心を持つ伝統的保守派などもロシアに親近感持つ理由は、文化的憧憬とは異なる。フランスメディアも、ウクライナ侵攻以前からロシアを脅威とみなしており、要するに、ロシア文化に魅せられて親ロシアとなる傾向は決してフランスでは一般的とは言えないし、対ロシア政策に影響を与えているとも思えない。
ロシアとの対話は欧州の戦略的自律の文脈上
マクロンは、その持論とする欧州の主権の強化や欧州連合(EU)の戦略的自律の立場から、当初からロシアを含んだ欧州の安全保障の枠組みの必要性を一貫して考えており、その戦略的目的のためにプーチンとの対話を重視して来たのであって、この記事が示唆するフランス人のロシアに対する憧憬とは異なろう。
ウクライナ・ロシア間に緊張が高まる中で、マクロンが、ロシアの侵攻を防ぐためにプーチンと折衝を重ねたことも、そのような認識の延長線上にある。結局、プーチンは既に軍事侵攻を決断しており、マクロンとの交渉は時間稼ぎに利用されたことは否めない。また、ウクライナ侵攻により、バイデン政権の登場で修復に向かっていた米国と北大西洋条約機構(NATO)諸国の結束が、劇的に強化される結果となった。
最近のウクライナとロシアの根競べのような状況において、マクロンは、今は西側がウクライナ支援に結束する局面と判断して、2月8日、パリでゼレンスキーとの会談前の記者会見で、「ウクライナが勝利するまで支援し続ける」と宣言し、1 月 17 日のミュンヘンの安全保障会議でも、「ロシアを勝たせてはならない」と述べた。
しかしマクロンには、一貫して、西側が結束してウクライナを支援すると共に、その結果、停戦が成立した後はウクライナとロシアの仲介役として永続的な平和の枠組みを構築するという二段階の目標があり、状況に応じて強調する点が変わっているのであって、状況が変化すれば再度ロシアに配慮する発言が出る可能性もあろう。