2024年11月22日(金)

Wedge OPINION

2023年3月9日

安倍氏の轍を踏むことはないか

 真相が未解明にもかかわらず辞職を迫るほうも迫る方だが、挑発に乗って思慮もなく「結構だ」などと応じる方も応じる方だろう。国民の信託を受けている国会議員の進退を、政局の具のように扱い、与野党議員の間だけで議論するのは、有権者にきわめて失礼というものだろう。

 今国会では、昨年夏の参院選で初当選しながら、海外に滞在し続け一度も登院していないガーシー議員とやらに「議場での陳謝」という懲罰が決まった。除名という強い意見もあったが、とりあえず穏当な手段がとられたのは、議員の身分が重いことを考慮してのことだった。

 議員の身分はそれほど重いのを、小西、高市氏とも理解していないようだ。「議員辞職という重い決断は、野党から言われてするものではない。進退は投票した人たちの思いを尊重しながら、自ら決断する」とでも、高市氏は返答すべきだったろう。

 松本剛明総務相が7日の記者会見で、内容の精査は必要であるとしながらも、総務省作成の文書であると認めたのを受けて、高市氏は「私に辞職を迫るなら、文書が捏造ではないと立証すべきだ」とトーンダウンさせたが、綸言(りんげん)汗の如し。国会の場での発言は取り消そうにもできるものではない。 

 野党が激しく追及した森友問題をめぐって安倍首相(当時)は、「私や妻が関係していたら、総理だけでなく国会議員もやめる」と見えを切って、傷口を広げてしまった。高市氏は同じ轍を踏むことにならないか。

命かけた論争と言葉だけの応酬

 86年前、浜田国松が厳しく軍部の非を鳴らしたときは、二・二六事件から1年も経っていなかった。

 この事件では、陸軍の青年将校らが岡田啓介首相、高橋是清蔵相、鈴木貫太郎侍従長ら要路の高官を襲撃、蔵相、斎藤実内大臣らを無残に殺害した。陸軍の反感を買えば容易に標的にされる。浜田にとっては文字通り命をかけた奮闘だったろう。 

 小西氏―高市氏による「令和の腹切り問答」は単なる売り言葉に買い言葉、口舌だけの論争としかみえない。時代が異なることを差し引いても、浜田の熱情とは、雲泥の差、比ぶるべくもない。

 泉下の浜田翁、後輩の体たらくをなんとみているだろう。

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