2024年12月3日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年3月29日

豪州へ売却される米海軍のバージニア級原子力潜水艦(DVIDS)

 3月13日、米英豪3カ国首脳は、豪州による原子力潜水艦の取得のための、米英豪の安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」の協力の具体的道筋を発表した。同日付の英エコノミスト誌がその内容を報じている。

 2021年9月、AUKUSの下で、豪州が、米英両国の協力を得て8隻の原子力潜水艦を取得する計画が発表された。英国が開発を始めている原子力潜水艦をモデルとした「SSN-AUKUS潜水艦」の最初の1 隻は英国で建造され、その後、豪州は自身の潜水艦を自国で建造する。「SSN-AUKUS」には米国の技術が提供される。

 新しい潜水艦の建造に要する年数は長い。豪州の現在潜水艦は2030年代初めには退役するが、最初の「SSN-AUKUS」を豪州が取得するのは2040年代初めとなる。

 このため、3カ国首脳は2つの先駆的措置を公表した。第一に、2027年には、英米両国は「高度の巡回プレゼンス」で太平洋に自身の潜水艦を展開する。第二に、米国議会の承認の上、豪州は、2030年代初めに、米海軍のバージニア級原子力潜水艦3隻を米国から割引価格で購入する。

 リスクは多種多様である。このプロジェクトに、現在は3カ国の超党派の支持があるとしても、実現までの間、3カ国ともいくつもの選挙がある。豪州にとってのコストは巨額であるし、原子力潜水艦の専門職の育成も大きな課題である。

 しかし、その利益も大きい。苦境にある英国の潜水艦産業は恩恵を得る。また、英国政府のインド太平洋への「傾斜」に実質を与える。米国にとっては、AUKUSはアジアの同盟の着実な体制固めとなる。そこには AI、量子技術、極超音速ミサイルなどの先端技術に関する協力が含まれる。

 AUKUSが、豪州の自由党から労働党に引き継がれた事実は、豪州国内における中国の脅威についてのコンセンサスを反映している。新たな8隻の潜水艦は、中国軍が台湾海峡を超えることを一層困難とするだろう。それは抑止を強化する。AUKUSによって、3カ国は後戻りできない同盟関係を築くことになろう。

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 2021年9月15日に、豪州が少なくとも8隻の攻撃型原子力潜水艦を取得することを中核とするAUKUSが発表された。当時、18カ月をかけてこの目標実現のための米英豪3カ国の協力の具体的道筋を策定するとされていた。18カ月を経過する今年3月13日、その道筋が公表された。3カ国首脳は米西部サンディエゴで会談し、共同声明を発表した。

 その内容は、この記事に紹介があるが、報道にある諸点を整理すれば次の通りである。

 第一段階では、米国と英国は豪州の水兵、技術者の訓練を行う。豪州は、米英の潜水艦を受け入れるためのインフラ建設を始める。米国は、2027年にも最大4隻のバージニア級原子力潜水艦を豪西部パース近くのスターリング海軍基地に巡回配備する。英国は、その後、アスチュート級原子力潜水艦1隻を巡回配備する。豪州はアデレードにおいて潜水艦建造のインフラ建設を始める。豪州は米英の造船産業の建艦能力拡大のためにも投資する。


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