10月16日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙コラムニストのジャナン・ガネッシュが、9 月の米英豪の原子力潜水艦などの安全保障に関する協力合意(AUKUS)がなされた後「英語圏」とは何なのかということが問われているが、「ファイブ・アイズ」の英語圏(英米加豪NZ)を結びつけるものは、文化というよりも地理的幸運であるなどと述べている。
ガネッシュの主張は、①9月のAUKUS原潜合意の後「英語圏」の国々を結びつけるものは何かと考えてきたが、それは言語ではなく、海洋に囲まれ、隣に大国がいないという地理的幸運だと感じるようになった、②英語圏の国々が他の世界と相違するのは、偶然の地理的独立(地理的に離れていること)であるが、それが他国に対してこれらの国を無理解にしているということであろう。英語圏の国々は、欧州大陸の国々や恐らく中国、ロシア、アジアの地理的幸運に恵まれない国の状況を理解する必要があると言う。
ガネッシュが9月のAUKUS結成を英語圏同盟(アングロサクソン同盟と言っても良いだろう)と見て、それを結びつけるのは言語ではなく、地理的幸運だとするのは興味深い。しかし、それは意図したというよりも結果論であろう。偶々関係三国の利害が一致したと理解すべきであろう。
英国はグローバル・ブリテンを早く具現したい、今後ますますコストのかかる原潜維持負担をできれば英豪合体化で合理化したい、豪州はフランスによる通常推進潜水艦の建造がうまく進まない問題を早急に解決したい、米国は対中戦略上、米英豪の原潜能力を強化したい、経済上のメリットもありうるなどの動機を持っていたと考えられる。
だからと言って、AUKUS結成に地政学が全く無関係だったとは言えない。広い意味で中国に対する地政学上の配慮は強くあったし、民主的国際秩序の保護という利益の配慮も強くあった。ガネッシュの考えは面白いが、狭くなった今日の世界では「地理的幸運」に安閑としているわけにはいかず、国際政治は依然として「地理」と「利益」で動くということではないだろうか。