2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年10月4日

 9月15日のAUKUSの公表は驚きであった。これは中国の野心と能力に対する米英豪3カ国の共同の対応に他ならない。就中、米国が機微な原子力推進技術の豪州との共有に踏み切ったことの意義は積極的な評価に値する。アジアへの「軸足回帰(pivot)」あるいは「リバランス」と言われて久しいが、米国はそのためのインパクトのあるイニシアティブを初めて打ち出したと評価出来る。

 これに関して、9月17日付のワシントン・ポスト紙では、同紙コラムニストのデビッド・イグネイシャスが豪州の原子力潜水艦建造を中核とする米英豪の新たな同盟AUKUSを、中国に対する戦略的抑止として評価する論説を書いている。

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 中国がその海軍力を含め軍事力を強化しつつある状況で、米海軍と連携して行動し得る、能力の高い原子力潜水艦隊を豪州が持つことは、抑止力を高め、この地域の安定に資すると考えられる。豪州は少なくとも8隻を建造する計画である。しかし、建造作業はこれからであり、いつ実現するのか、道程は長い。

 AUKUSのイニシアティブにはアフガニスタンからの混乱した撤退で傷付いたバイデン政権がその威信を回復する狙いも込められていたであろう。しかし、豪州とフランスとの契約を反故にするという、この機微な問題を巧みに処理し得たとは到底言い得ない。

 フランスは、AUKUSに憤激し、駐米・駐豪のフランス大使を召還するという異例の措置に出た。バイデン大統領はマクロン仏大統領に電話し、マクロン大統領は駐米大使をワシントンに帰任させることを決めたというが、フランスと豪州との間に生じた溝は、なかなか埋まりそうにはない。


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