2024年4月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年3月29日

 第二段階では、2032年から、米国はバージニア級原子力潜水艦3隻を豪州に売却する。これにより、豪海軍のコリンズ級潜水艦の退役後の空白を埋めることとなる。第三段階では、英国と豪州は「SSN-AUKUS」の建造を始める。それぞれ少なくとも8隻を建造予定である。これにはバージニア級潜水艦の先端技術が搭載される。英国が「SSN-AUKUS」の一番艦を取得するのは2030年代の遅くとなる。豪州が豪州で建造される「SSN-AUKUS」の一番艦を取得するのは2040年代の初めとなる。

 AUKUSは、先例のない3カ国の政府・軍と造船産業を巻き込んだ巨額の大規模プロジェクトである。機微な技術の取り扱いと習熟が絡んだ複雑性を内包している。時間軸は少なくとも2040年代に及ぶプロジェクトであり、3カ国の潜在的な政権交代にかかわらずプロジェクトの確実な推進が求められており、それなくしては計画が画餅に帰する危険がある。

 米国が原子力推進技術(英国を除いて他国と共有したことはない)を豪州とも共有するとの決断、また、バージニア級原子力潜水艦を豪州に売却するという、これまた先例のない決定も、同盟諸国間で技術・リソースをプールして同盟を強靭なものとし、同盟諸国との統合された行動による抑止力の強化を狙うバイデン政権の行き方を示すものと言える。

後戻りできない決断を下した豪州

 3月16日付エコノミスト誌は、「AUKUSは西側同盟の模範となる」と、このバイデン政権の方向性を支持する社説を掲げている。

 英国と豪州が「SSN-AUKUS」を共同で開発することとなり、インド太平洋における英国の役割は18カ月前と比して格段に拡大した。歓迎すべきことである。「グローバル・ブリテン」という欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)後の外交指針に沿うものと言えよう。

 この記事は末段で、このプロジェクトによってAUKUSは後戻り出来ない地点に立ち至ったと指摘している。特に、豪州にとっては後戻りの出来ない重大な決断だったはずである。豪州は朝鮮戦争、ベトナム戦争、あるいはアフガニスタン紛争でも米英両国とともに戦ったが、今また中国を抑止する観点から、このプロジェクトに深くコミットするに至った。

 今後、長期にわたり、財政負担、インフラ構築、技術の習得など多方面において、プロジェクトの成功に向けた大きな努力が求められることとなる。

   
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