2024年11月27日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年4月7日

 野党は、これを民主主義に反する乱暴な措置と非難したが、この手続きは憲法上行政府に与えられた明確な権限であり、国民議会は首相を不信任することでこの法案を拒否することができたが、過半数を得られなかった。国民議会は法案の成立を容認したことになり、手続きは合法でもあり正当でもある。

 だが、元々年金改革に反対が7割近くを占める国民の目には民意を無視するものと受け取られ、野党側は、民主主義に反する暴挙であるとして、20日の不信任決議の審議では、4時間にわたり政府を非難した。不信任案否決後も全国の都市での抗議行動は激しさを増し暴力行為にも発展している。

 野党勢力は、首相辞任、国民投票の実施或いは議会の解散総選挙を要求している。極右や極左は、この機会にマクロンを追い詰めて勢力を伸ばそうと年金改革の是非よりもマクロン政権の姿勢を非難し、国民を煽っており、この問題の政治利用の意図が露わである。

 年金改革は、国民に負担を求めるものなので、フランス人が国家の将来よりも自分の懐を重視するのはやむを得ない面があるが、そこを粘り強く説得し理解を求める慎重な努力が必要であったかもしれない。また、ウクライナ問題に起因する経済的困難の中で無理をすべきではなかったとの指摘もある。

マクロンに必要な多数派の再構築

 現在、抗議行動の鎮静化と体制立て直しがマクロンの緊急の課題であるが、まず、マクロン自身が国民になぜこのような選択をしたか説明する必要がある。年金改革法の撤回や国民投票や議会の解散はあり得ないが、マクロンは、ボルヌ内閣の閣僚のパフォーマンスには必ずしも満足していなかったとの報道もあり、首相を含む内閣の交代の可能性や、年金受給者に有利な何らかの部分的修正や負担軽減措置の検討する意向表明などはあり得よう。

 また、残された4年の任期のために多数派の再構築が必要であり、内閣不信任決議のリスクが常に存在することから共和党への依存が更に深まることになろう。国内情勢次第では欧州連合(EU)における発言力にも影響が出る可能性がある。しかし、外交は、大統領専権事項であることから、マクロンは引き続き積極的関与を続けるであろう。

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