どの国も軍拡競争に参加すべきではないが、平和のためには戦争に備えなければならない。ロシアのウクライナにおける挫折は、台湾海峡その他アジアのいかなる地域におけるいかなる軍事的侵略や封鎖も確実に莫大なコストをもたらすということを中国に示しているはずだ。
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上記社説は、軍備競争を推奨するつもりはないが、台湾としては、いざという時のために、戦いに備えなければならないとした上で、ウクライナのケースが示すように、台湾海峡におけるいかなる軍事的攻撃や海上封鎖も巨大な代償を支払うことになることを中国に知らしめなければならない、と指摘する。いずれももっともな指摘と言える。
「平和的統一」という言葉によって、台湾の統一を図ろうとする中国は、これまで30年間にわたって平均6.6%の軍事費増強を行ってきたが、先日の全人代報告では、昨年に比し、今年は7.2%増となった。ちなみに、中国の公表された数字は必ずしも信頼できないものが多いが、上記の国防予算の数字はほぼ実態を反映しているのではないかと受け取られている。また、国防予算の増大だけではなく、治安維持のための予算が、過去10年間でほぼ倍増しているという。
これに対して、今年の蔡英文総統下の台湾はGDPの2.4%へと国防予算を増強したが、台湾の予算のみでは中国の強大な予算に対比すべくもない。そのため、台湾としては基本的価値観を同じくする国々と国際的な結束をかため、中国の動きに対抗する以外ない。
米国が2023年度国防授権法で、台湾の地位を、NATOのメンバーではない主要な同盟国と同じ地位を持つものとして扱うこととなったのは、特に注目に値しよう。
蔡英文総統は、3月29日に台湾を出発して、中南米のグアテマラとベリーズを公式訪問し、途中ニューヨークとロサンゼルスに立ち寄っている。蔡総統と与党民進党は、米国との協力で中国の軍事的脅威に共同して対処する一方、米国製武器購入を加速化し、経済・貿易協力を拡大し、国際機構への参加拡大などを行おうとしている。蔡総統の米国立ち寄りとケビン・マッカーシー下院議長を含む米側要人との会談は、米国の台湾防御についての決意を確認することになろう。
野党・国民党に接近する中国
他方、台湾の最大野党・国民党の馬英九・前総統は、「先祖の墓参り」の名目で3月27日より中国を訪問した。台湾の総統経験者が中国を訪問したことはかつてない。中国政府の中で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室は「馬氏の来訪にあたり、われわれは、必要な支援を惜しまない」との声明を出した。さらに、国民党副主席の夏立言氏が中国を訪問したのは、つい最近のことである。
中国に対し、全体として融和路線を取る国民党の前総統・馬英九が中国を訪問することを中国は歓迎している。中国の対台湾政策は来年1月の総統選に向け、硬軟両様の構えをさらに強めるものとなろう。
民進党・蔡英文政権に対しては軍事、非軍事両面で威嚇・脅迫を主とし、野党国民党関係者に対しては、微笑外交的融和路線で対応するという両面性を持つものになりそうだ。