未成魚も卵も一網打尽
境港のクロマグロ漁
「昔の太平洋クロマグロ(以下、クロマグロ)は100~150キロのものばかりだったけど、今は20~30キロ台のものばかり」築地市場で30年以上マグロの仲卸業を営む生田與克さんはそう嘆く。クロマグロは「本マグロ」として知られるマグロの最高級魚種だ。
今年、ISC(北太平洋のまぐろ類等に関する国際科学委員会)は、「クロマグロの資源は過去最低水準」と発表。海外の環境団体は「絶滅寸前の危機」と指摘した。水産庁の資料によると、01~10年に獲られたクロマグロの95%以上が未成魚だ。
「境港のやり方はクロマグロを絶滅に追い込む可能性があります」
境港市の漁業関係者である鶴田達郎さん(仮名)はそう話す。クロマグロは境港沖合の日本海海域と南西諸島海域の2カ所で産卵するが、そこで「青森県の大間1年分のマグロを巻き網により1日で獲っている」(三重大学・勝川俊雄准教授)のだ。
境港はイワシやサバの漁をしていたが、乱獲により魚が減少したため、04年から沖合に産卵海域のあるクロマグロを新たな獲物にした。高性能のソナーを使い、巻き網でクロマグロを根こそぎ獲る。大間などで行われている一本釣りと異なり、巻き網は文字通り魚を一網打尽にする。
「今年6月に境港で水揚げされたマグロは20~30キロのものが過半を占めていました。未成魚や卵を抱えているものも多く、胸が痛みます」鶴田さんは水揚げデータを見ながらそう話す。境港のクロマグロ漁は未成魚と産卵親魚の乱獲という資源管理上好ましくない漁業を行っているのだ。環境団体として名を馳せるグリーンピースも「境港には特に注意している」(花岡和佳男・海洋生態系担当)と目を光らす。
もともとイワシやサバを獲っていた巻き網の運搬船に冷凍設備はなく、一本釣りのように素早く船上で処理することもできない。血抜き処理をしていないため劣化が早い。こうしたクロマグロが大量に築地へ出荷されるが値がつかないことも多い。結局買い叩かれて「生マグロ」として安くスーパーなどの店頭に並ぶのである。