都立大学教授の宮本は「経済力は国際的な発言力につながる。(ここまで日本経済の地位が低くなると)国際舞台で発言できなくなる」。そして、いま日本はその岐路にいる。
「〝外国〟が(日本が浮上する)ひとつのキーワードになる。資金の調達ばかりではなく、グローバルな視点と(外国の)人材と働くことである」と、宮本は強調する。
ポテンシャルを発揮できない日本企業と人材
取材班は、日本の企業が外国の企業の傘下にはいったり、日本企業の従業員が外国企業に転職したり、それは大企業に限らず、中小企業にも大きな果実をもたらす可能性があることを追跡していく。このルポルタージュの核心である。
中国の電機メーカー・ハイセンスグループは、年間売上高3兆5000億円。世界8ヵ国23カ所で人材を集めている。経験のある技術者には月収100万円、成果報酬も整えている。
日本にもその研究拠点がある。ハイセンス・ジャパンの先端技術総合研究所のシニアスペシャリスト・今井俊次は語る。この研究所の陣容は技術者が160人を超え、その8割が大企業からの転職組である。今井自身もまた、日本メーカーで洗濯機の開発に10年以上かかわってきた。
「思いのほか、自由度が高くて、わたしがいままでやりたいと思っても、結局できなかった開発が全部できる。それは非常にありがたい。実際に本当に楽しいです」
「試作品を作って中国とか社長とかに話すと、『やってみようよ』といってくれる。日本企業にいるときには、関門みたいな人、偉い人がたくさんいて判子を山ほどもらってくるということで若いころはやっていた。本当に野球のコーチや監督だらけだったと思う」と。
ハイセンス・ジャパン社長の李文麗は語る。
「中国や欧米のエンジニアの賃金はここ数十年上がってきていますが、日本はあまり変わっていません。日本の賃金を諸外国と同じ水準に上げるべきだと思います。さもなければ、日本は多くの人材を失うでしょう」と。
外国勢による中小企業に対するM&Aや協業の動きにも、はっきりと現れてきた。全体の25%が東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々、とくにシンガポールやマレーシアの企業が目立つという。これらの国々は構造的に日本を逆転している、つまり進化しているなかで日本の技術を欲しているのである。
米投資ファンドのブラックストーン・グループ・ジャパンの代表取締役である坂本篤彦は語る。
「本当にフルポテンシャルを発揮できない、発揮するところまでたどり着いていない企業が、日本には眠っている。(日本は)リスクが取りにくい風土とカルチャーができあがっているのではないか」と。