2024年4月29日(月)

世界の記述

2023年4月15日

ジプニーが育んできた文化を保持できるか

 現地のオンラインニュースサイト「ラップラー」には、「文化的問題としてのジプニー廃止」というタイトルの論説記事が掲載された。マーケティングコミュニケーション・コンサルタントでデ・ラサール大学で教鞭を取るベネット・ディチャンコ(Bennet Dychangco)氏は、冒頭でジプニーについて、「私にとっては、敬意によって成り立っている唯一の交通手段だ」と語る。現行ジプニーの廃止には立場によってさまざまな議論があるが、誰もが共通理解を持つ文化的側面にも目を向けるべきだと主張する。

 ジプニーは、バスやタクシーのように同じ外見の車両であることがない。ジープのような形をした車体には、一台一台、個性的なデコレーションがほどこされ、それ自体がフィリピン独自の文化となっている。

 さらにディチャンコ氏が注目しているのは、ジプニーでの乗客と運転手の間に育まれている、信頼と敬意の文化だ。

 ジプニーでは、乗客は運転手に降車する場所を告げて、そこまでの距離によって運転手が請求する運賃を支払う。運転手は乗客が自己申告する降車場所を信じて、請求額を決める。支払いの際、運転手に手が届かない席に座っている人は、運転席に近い乗客に運賃を手渡し、リレー方式で運転手まで届けられる。

 おつりもまた、同じ方式で支払った人にもどってくる。すべてのやりとりが、同乗している人々の信頼と敬意に基づいて進むのだ。

 車体の後ろから屈んで乗り込み、両サイドにある長椅子に次々と座っていく方式のジプニーは、乗り心地がいいとは言えないし、大きな荷物を持った人や高齢者は乗り降りに苦労する乗り物だ。が、だからこそ、同乗者同士の声がけや助け合いが自然に生まれる。乗客同士は向かい合って座っているので、なおさらだ。

客が満員電車のようにピッタリ詰め、向かい合って座るのもジプニーらしさだ

 決してお金持ちではない庶民のあたたかさと慎ましさ、そして気高さが詰まった乗り物であるジプニー。それを、庶民に大きな経済的負担を背負わせることで真新しく乗り心地の良いエコで便利な車両に替えるのではなく、人々の暮らしと文化を守る形で持続可能なシステムに近代化することはできないだろうか。

 陸上交通許認可規制委員会(LTFRB)は、3月7日、ようやく従来のスタイルの新型ジプニーのプロトタイプの一つの利用を承認した。ただ効率的な近代化を進めるのか、庶民の生活と独自の文化にも配慮するのか、フィリピンの選択が注目される。

   
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