カギを握る次戦の投球
アスレチックスのチーム防御率は15日現在で7.97と惨憺たる状況となっており、MLB30球団中最下位で唯一の7点台後半。29位のデトロイト・タイガースのチーム防御率は5.87と比較すれば、いかに〝投壊〟が著しいかがうかがい知れる。この日の登板で藤浪は0勝3敗、防御率は多少回復して11.37となったが、こうしたフラストレーションの溜まるアスレチックス投手陣の中においてはまだまだ十分にチャンスが残されている。
MLB公式サイトによれば、この日藤浪から同点ソロを放ったメッツのキャンハが「彼(藤浪)は本当にいいものを持っている」と評し、さらに「彼がどんな成功を収めようと僕は驚かないよ。本当にハードな投球をするし、素晴らしいスプリットを持っている。細かな動きをするスライダーもある。彼がボールをコントロールできれば、本当にタフな相手になると思う」と語ったという。
これは決してリップサービスではない。ニュートラルな立場のMLB公式サイト(MLBドットコム)を含めた米メディアへ、昨季まで藤浪と同じアスレチックスに7シーズン在籍していた34歳ベテランのユーティリティープレーヤーであるキャンハが語った紛れもない本音である。ようやく3試合目の登板で覚せいの片鱗を垣間見せた藤浪への評価が対戦した並みいるメジャー強打者たちからも強敵として印象付けられ、本物になりつつあることは容易に想像がつく。
かつてアスレチックスや複数のMLB球団に所属したこともある日本人のメジャー関係者の1人は「藤浪はこのチームに加わって非常にラッキーだ」と話すと、次のようにも続けている。
「もしも彼がアスレチックスでないメジャー球団に在籍していたならば、おそらく最初の2試合の登板で中継ぎに配置転換されることになっていただろう。ただアスレチックスで土曜日(15日のメッツ戦)のようなピッチングをブラッシュアップさせ、今後の登板で見せつけることができれば、彼は一気にエースクラスにまで上り詰め、救世主扱いされることになる。
彼は阪神タイガースで近年は伸び悩み、新天地を求めていた。名門の大阪桐蔭でエースを務めた高校時代はチームを春夏甲子園で連覇に導き、3年時にU-18代表として大谷翔平投手(北海道日本ハムファイターズから現ロサンゼルス・エンゼルス)とチームメートになり、プロ入り当初まで『大谷のライバル』として目されていたことは日本の球界事情に詳しいMLB関係者なら誰もが知っている。
長らく阪神でくすぶっていた藤浪の獲得にアスレチックスは環境が変われば一気に『モンスター』へ変貌する可能性を秘めていると踏んでインセンティブも含めた総額425万ドル(約5億7375万円)もの1年契約でゴーサインを出した。もともと100マイル近い速球を投げられ、落ちるボールも持っているし、本来の力を出せれば実力は間違いなくMLBレベル。その一旦をアピールすることに成功した藤浪にとってはここからが本当の勝負となるが、それを彼自身がどのようにステップアップさせて完成形に持っていくことができるか。事の成り行きをデビッド・フォーストGMらアスレチックスの球団編成組も固唾を飲んで見守っている」
最初の2試合で米メディアや日米のファンから一転し、激しいバッシングの嵐にさらされたが〝3度目の正直〟で何とか風向きを変えた。ここから一気に初勝利をつかみ、白星も重ねていきたいところだ。
群雄割拠のMLBの世界で必死にあがき、チャンスをものにしようとする藤浪の姿を世のビジネスパーソンもぜひ注目してほしい。「元」ではなく「現・大谷のライバル」として異国の地・米国で再び光り輝いてほしいところだ。