一気にジャンプアップを狙う。プロ野球阪神タイガースからポスティングシステムを利用し、MLB(メジャーリーグ)のオークランド・アスレチックスへ移籍が決まった藤浪晋太郎投手は今、清々しい気持ちと内に秘めた〝野望〟とともに憧れの新天地でのプレーを心待ちにしている。
現地時間の1月13日、アスレチックスの地元である米国カリフォルニア州オークランドで行われた入団会見で28歳右腕はこれ以上ない、はにかんだ笑顔を見せた。冒頭から「Hi, nice to meet you everyone. I’m Shintaro Fujinami. Please call me Fuji, like Mt.Fuji.(皆さん初めまして。私は藤浪晋太郎です。富士山のようにフジと呼んでください)」と流ちょうな英語を駆使し、その後も約1分30秒近くオールイングリッシュのスピーチを続けた。最後に「GO!Oakland A'S!(行くぞ! オークランド・エーズ!)」とアスレチックスのチーム愛称を用いながら力強い言葉で締めると、会見場は拍手喝采で大きく沸き上がった。
後日、藤浪が明かしたところによれば、英語のスピーチはあらかじめ「覚えるのに必死で3、4日ぐらい前から練習していた」という。それにしても入団会見から、これだけの長い時間を費やし、しっかりとした発音を口にした日本人メジャーリーガーは稀だ。
会見場となったアスレチックスの本拠地リングセントラル・コロシアム内の球団事務所に集まった米メディアからは驚きや称賛の声が飛び交い、実際にAP通信の現地記者が質疑応答の際に「あなたの英語は非常に美しく、アスレチックスの一員として素晴らしいスタートになった」と評したほどだった。
MLBの高い評価を得ていたポテンシャル
おそらく実情をあまり良く知らない世間の多くの人たちは当初、藤浪のMLB移籍に対して懐疑的な目を向けていたのではないだろうか。昨年10月17日に藤浪が阪神からポスティングシステムでのメジャー挑戦を容認されて以降、獲得に名乗りを挙げるMLB球団が果たしてあるのかどうか。疑問視するような類のコメントはつい最近までネットやSNS上でも数多く散見されていた。
ところがいざフタを開けてみれば、ポスティングシステムを利用するNPB選手として今オフの米FA市場に「シンタロウ・フジナミ」の名前が出回ると、複数のMLB球団の間で争奪戦がぼっ発。そんな水面下でのバトルを制したのがチーム創設130年の歴史を誇り、アメリカン・リーグ西地区に所属する伝統球団のアスレチックスだった。しかも契約期間は1年ながら年俸325万ドル(約4億2000万円)にインセンティブ(出来高)も加わるという破格の内容となった。
もちろん、敏腕代理人で知られるスコット・ボラス氏の尽力もあっただろう。しかしながら、それだけではない。藤浪の知られざる能力はもともとMLBから非常に高い評価を集めていた。