NYで世界の「SENGA」へと昇り詰めることができるか。福岡ソフトバンクホークスから海外FA権を行使し、千賀晃大投手がニューヨーク・メッツへ入団した。新天地となるメッツの先発事情、そして千賀のストロングポイントをクローズアップしながら諸々深堀してみたい。
29歳の千賀はメッツと5年総額7500万ドル(約99億6000万円)の契約を締結した。その内訳として契約金が500万ドル(約6億6000万円)で、年俸は1400万ドル(約18億6000万円)となっている。年俸はソフトバンク時代の推定6億円から一気に3倍以上にまで跳ね上がり、長期契約も手にした。メッツの期待値がいかに高いかがうかがい知れる。
メッツの超豪華先発陣
メッツの先発陣にはMLB屈指の超豪華な実力者たちがズラリと顔を並べる。今季ア・リーグのサイ・ヤング賞に輝いた39歳のジャスティン・バーランダーと、過去3度の同賞受賞歴と2度のノーヒットノーラン達成の偉業を成し遂げている38歳マックス・シャーザーの2人はチームの二枚看板。千賀以外にも今オフ、球団側は実績十分な2人の中南米系ベテランスターターを獲得している。クリーブランド・インディアンスで過去にはア・リーグ最多勝にも輝き、今季15勝7敗をマークした通算104勝の35歳右腕カルロス・カラスコと、ピッツバーグ・パイレーツおよびシーズン途中から移籍したセントルイス・カージナルスで併せて今季6勝7敗、防御率2・93をマークし、コロナ禍の2020年から2年連続で未勝利となっていたスランプから復調を遂げた通算89勝の33歳左腕ホセ・キンタナだ。
千賀はこのカラスコ、キンタナと先発3~5番手の座を争うことになるとみられる。MLBでの実績こそまだ何もない「ルーキー」とはいえ、来年1月で30歳を迎える千賀はバーランダー、シャーザー、カラスコ、キンタナの先発陣の中で最も若く可能性を秘めている。
NPB時代、ソフトバンクではエースとしてチームの黄金時代を築き上げ、侍ジャパンでも近年は2017年の第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)と2020年の東京五輪に参加して存在感を示し、メッツのみならず数多のMLB球団から熱い視戦を送られ続けていた。
スリークォーターから投じられ、伸びのあるフォーシームは今季、NPB史上で日本人2位となる164キロを計測。鋭角に曲がるカットボールと縦スライダー、落差の大きいフォークボールでバットに空を切らせるのが、千賀の持ち味である。特筆すべきは千賀の代名詞でもあるフォークボールで「お化けフォーク」と呼ばれ、NPBでも対戦する打者を幻惑させ続けてきた。米メディアやMLBの有識者もNPB時代に命名された通称をそのまま英訳し「ゴースト・フォーク」として、千賀のストロングポイントを煽り続けている。
米球界屈指の名将
メッツを率いるバック・ショーウォルター監督も千賀について「彼がMLBを驚かせるボールを武器にしていることは知っている。非常に楽しみであり、大いに期待している」と米スポーツ専門局「ESPN」に語っている。今オフに2022年シーズンのMLB最優秀監督賞に選出され、史上3人目で最多タイ記録となる通算4度目の受賞を決めた米球界屈指の名将が千賀への期待値を高めているのは、やはり「MLBを驚かせるボール」すなわち「ゴースト・フォーク」をウイニングショットとして組み込んでいるところにあるようだ。
MLBでは、いわゆる「フォークボール」を投げる投手が少ない。どうしてもヒジに負担がかかることから故障を誘発ししてしまう可能性があるとされているからだ。
ただフォークよりも速い球速で落差が小さいSFF(スプリット・フィンガード・ファストボール)はヒジへの負担が少ないことからMLBでも決め球として割と多くの投手に用いられている。このSFFやフォークを総称し、MLBでは「スプリッター」として一括りで呼ばれている。こうした観点から考えれば、千賀が「MLBを驚かせる」ほど大きな落差を誇る「ゴースト・フォーク」もとい「ゴースト・スプリッター」でセンセーションを起こすシナリオは現実化しそうな予感は確かに漂う。
かつてフォークを武器に海を渡った日本人メジャーリーガーの偉人たちがいた。野茂英雄氏や伊良部秀輝氏、佐々木主浩氏の3人はMLBでインパクトを残した。
MLB公式球も含め新しい環境下で早い段階からアジャストできれば、偉大なフォークの使い手3氏をも超越するだけのポテンシャルを千賀は秘めているだけに初見で「ゴースト・フォーク」の対応策を見出しづらい相手チームの打者たちを制圧し、爆発的な活躍を遂げる確率は高いとみている。カラスコ、キンタナを抑え、二枚看板に次ぐ先発3番手に浮上しても決しておかしくはない。
ちなみに、これまでメッツにはMLB最多の日本人選手14人が在籍している。メッツで15人目となった千賀は日本人選手の中では過去最高の契約内容となり、破格の待遇で名門球団へ迎え入れられた。