2024年4月30日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年4月26日

 しかし、ウクライナの戦争がどういう形で終わるか定かでない状況では、多くの加盟国がウクライナの将来の加盟に至る工程表に踏み込むことをためらうであろう。戦争が「凍結された紛争(戦闘は終結ないし小康化したものの、戦争そのものは終わらない状態)」という不安定な形で終わる見通しであれば、加盟を認めることはNATO条約第5条によりウクライナの防衛義務を負うことを意味するので、なおさらのこと、踏み込めない。

 そればかりではない。加盟申請が真剣に検討されるに先立ち、申請国には政治的・軍事的・その他諸方面の要件を充たすことが求められている。領土紛争など国際紛争を平和的に解決すること、軍の民主的コントロール、既存加盟国との相互運用性(NATOのミッションへの貢献のためにも必要)などである。

2008年当時も割れた意見

 上述の要件を充たすことを手助けするNATOのプログラムが「加盟のための行動計画」である。2008年のブカレスト首脳会議に際しては、ウクライナ(およびジョージア)のNATO加盟を推進するジョージ・ブッシュ米大統領(当時)が加盟への一歩となるこのプログラムのウクライナへの適用を主張した。

 だが、メルケル独首相(当時)とサルコジ仏大統領(当時)が懐疑的で(両者はウクライナのロシアとの緊張した関係を懸念)、結局、妥協として、「加盟のための行動計画」の適用の可否は外相会合の検討に委ねることでお茶を濁す一方、「われわれはこれら諸国(ウクライナとジョージア)がNATOのメンバーとなるであろうことに本日合意した」との文言を首脳会議の宣言に書き込むこととなった。

 この記事によれば、ゼレンスキーはNATO加盟に向けた具体的措置を要求しており、妥協はしないと言っている由であるが、障害は大きい。ウクライナにとって、現時点でそれよりも遥かに重要なことは、春の反転攻勢のために必要な武器・弾薬の迅速な供与の約束をNATO諸国から取り付けることだと思われる。

   
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