英フィナンシャル・タイムズ紙の4月7日付の解説記事が、北大西洋条約機構(NATO)加盟を求めるウクライナに対して加盟の工程表を与えるべきか否かを巡って、米国やドイツなどが反対し、これを支持する東欧諸国と対立する構図が明らかになっている、と報じている。要旨は次の通り。
米国は7月のNATO首脳会議でウクライナにNATO加盟の工程表を提供すべきだとするいくつかの欧州の同盟国の努力を押し戻そうとしており、戦後におけるキーウの地位を巡る西側の分断が明らかになっている。
米国、ドイツ、ハンガリーは、キーウにNATOとのより深い関係と将来における加盟支持の明確なステートメント(声明)を与えるべきだとするポーランドやバルト諸国のような諸国の努力に抵抗している。
NATOは2008年にウクライナがいずれかの時点で加盟国になることに合意したが、以来、その具体化が図られることはなかった。当時は、ウクライナに具体的な加盟の時間表(Membership Action Plan)を与えることを求めたのは米国であったが、フランスとドイツがロシアにとって挑発的であるとの懸念から反対した。
昨年、ロシアによる侵攻を受けて、ウクライナはNATO加盟を正式に申請した。NATO事務総長ストルテンベルグは、3月、キーウに提供出来る「実際的で政治的な」措置の概略を示す提案文書を加盟国に提示した。
31の加盟国は、加盟が短期的なオプションでないことについては一致している。NATOとキーウとの関係を厚みのあるものとする加盟に向けての「政治的道筋」をウクライナに提示することを支持する加盟国は増えつつある。しかし、米国はそのような提案に反対のようである。
米国はその代わり同盟国に対し短期的な軍事的・財政的・人道的援助に焦点を当てるよう求めている。弾薬の提供のような実際的な支援が7月に行われるリトアニアの首都ビリニュスでの首脳会議の主要なプライオリティであるべきであり、戦後の潜在的な政治的関係を巡る議論はその目標から注意をそらすことになる、と米当局者は言う。
ワシントンは、戦争中における関係の深化が、ロシアはNATOと戦っているというプーチンのセリフに油を注ぎ、ロシアが核兵器の配備を含め戦いをエスカレートさせることを懸念している。
検討されている一つのオプションは、既存の「NATO・ウクライナ委員会」を「NATO・ウクライナ評議会」に格上げすることである。これは、ウクライナをNATOのパートナーに位置付けるステップであり、NATOの会合やインテリジェンスの共有を含む協議への関与が拡大することになる。
ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO加盟に向けた具体的なステップ―(例えば、加盟国による戦後の安全の保障、あるいはNATOとのより深い協力関係)が提示される場合においてのみ首脳会議に出席するとして、妥協しないことを明確にしている。
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NATO条約は、非加盟の欧州の諸国に加盟のために開かれていること、および、加盟には加盟国の全員一致の合意を要することを定めている。NATO条約第10条には「締約国は、この条約の原則を促進し、かつ、北大西洋地域の安全に貢献する地位にある他の欧州の国に対し、この条約に加入するよう全員一致の合意により招請することができる」とある。
ウクライナは加盟を希望している。ウクライナはロシアから自国だけでなく、NATO加盟国をも防衛していると考えており、彼らの戦闘がNATO加盟の権利を勝ち取ったと考えているに違いない。ウクライナの加盟の願望は同情をもって受け止めるべきである。東欧諸国には、同情の念が強い。昨年10月、東欧のNATO加盟9カ国は共同声明で「ウクライナの将来のメンバーシップに関する2008年のブカレストNATO首脳会議の決定を確固として支持する」と表明したことがある。