2024年5月6日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年4月28日

 OPECプラスは、今回の減産決定は世界的な原油需要の減退に対応するためと説明している。確かに米国経済を初めとして世界的な景気後退の観測が高まっており、原油需要の減退の可能性がある。他方、米ゴールドマン・サックスなどは、今回の減産決定前に、中国経済が新型コロナに対する規制解除により回復することから原油価格は100ドルになるとの見通しを立てており、やはり、サウジを初めとするOPECプラス加盟国の懐具合の事情と考えるのが妥当であろう。

 また、今回の減産決定は、最近の米国・サウジ関係の困難さをさらに一層浮き彫りにした。これまで米国の安全保障の傘に依存していたサウジを初めとするペルシャ湾岸のアラブ産油国(湾岸協力会議<GCC>加盟国)は、自国の懐具合よりも米国との関係を重視してきた。

 しかし、米国は対中国シフトのためにこの地域から軍事力を再配置し続けており、2021年には4万人の米軍が中東に展開していたが、最近では3万人に減っている。否応なくGCC側も中国などとの関係強化に乗り出しており、サウジは、「サウジアラビア第一主義」を選び、米国に対して「世界は米国一極の時代ではない」というメッセージを送っている由である。

中国によるサウジ・イラン仲介の影響も

 しかし、今回の減産決定をサウジが主導することを直接的に可能にしたのは、中国の仲介によるサウジとイランの関係修復が大きいと考えられる。これまでサウジはイエメン内戦に介入した結果、イエメンの反政府勢力であるイスラム教シーア派武装勢力フーシからのサウジ本土に対するミサイルとドローンの攻撃に手を焼いていたが、フーシの後ろ盾であるイランと和解したため、サウジに対する安全保障上の直接的な脅威が大幅に減じた。

 また、フーシの攻撃が続く中、これまで米国に地対空ミサイルなどの武器弾薬の供給を依存していたが、ユダヤ・ロビーの反対などでなかなか思うとおりに進まなかったところ、誇り高いサウジ人にとり、米国に頭を下げなくて済むということは重要であろう。

 さらに現在、サウジの全権を掌握しているムハンマド皇太子にとり、「サウジ・ビジョン2030」と呼ばれる経済改革は、彼が国民の支持をつなぎ止めるために失敗は許されず、必要な財源確保のためには米国を怒らせてでも減産して油価を引き上げざるを得ないのだろう。

 シェール革命で世界最大の産油国となった米国は、OPECプラスの減産に対抗して自国の原油生産を増産する事が可能だと思われるが、バイデン政権の脱炭素化重視政策が障害となっている。今回の出来事は、米軍の撤退が米・サウジ関係の緊張のきっかけとなり、他方、バイデン政権の脱炭素化重視政策が自国の増産で油価の上昇を抑えられないということだから、米国は自ら苦境を作り出しているとも言えよう。

   
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