実は、日本は大手メーカーも含めて、海外のマーケティングが必ずしもうまくはない。観光においてもマーケティングの必要性は語られてはいるものの、どのようにマーケティングを組織能力として学ぶかまだ明確な解を持っていない組織がほとんどである。
本来は日本のマーケティングの中核を担うはずのDMO(デスティネーション・マーケティング・オーガナイゼーション。最近はデスティネーション・マネジメント・オーガナイゼーションとも呼ばれる)は、地域のマーケティングを担う組織だが、マーケティングのプロフェッショナルが全国のDMOにいるわけではない。
観光庁が最近DMO向けのマーケティングガイドブックを発行したのが現状である。IRを通じて国際競争の激戦区の中でマーケティングを学び、そこから伝播させて日本の観光マーケティング力を高めるような意識が今こそ必要なのではないだろうか。
解いておくべき2つの誤解
IR と言うとどうしてもカジノのみに目が行きがちだが、MICEをどのように運営するかという観点は極めて重要であり、日本のポジションを改めて世界で構築するのにも役立つことを忘れてはいけない。MICEは企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字をとったものである。ホテルや会議室、その他の設備も必要であるが、それ以上に構想力や企画力を含めたソフト力が重要である。
ソフト力を考える際に2つの誤解を解いておく必要があるだろう。一つは未だに日本がアジアでは圧倒的な経済力を持つ魅力ある地であるという認識であり、もう一つは日本のビジネスが低調なために海外のビジネス客に向けてウリになるものがないという認識である。
この矛盾した2種類の極端な見方はどちらもある部分あっているが、ある部分不正確である。確かに日本の経済的な位置づけは1980年代、90年代に比べて低下してきており、フォーチュン500や時価総額ランキングでは劇的に日本の地位は低下している。何も工夫せずに海外からビジネス客が会議や研修旅行に来るわけではない。
MICEに来る企業の顧客層はもちろんアクセスや設備・利便性などを選択基準にしてはいるが、それ以外にも付加価値を常に考えている。日本のMICEにおける魅力はさまざまな展開が可能であり、例えば日本の食は海外のビジネス客にも一定の吸引力を持ちうる。
筆者が所属するビジネススクールは海外のビジネス幹部の訪日研修を受け入れているが、中国を含むアジア圏、欧州、米国からの引き合いは増加している。それぞれの客層によって来日ニーズは多少は違うが、ロボティクスの適用、ホスピタリティの実践、ファミリービジネスや長寿企業に関して学びたいというニーズは継続的に存在する。
加えて言うならば海外におけるビジネスの価格帯と日本における価格帯の差も常にウォッチしておく必要があるだろう。特にビジネス教育において、海外では高品質のものには多くの日本人が想定している以上の価格を払う傾向がある。例えば 欧米のトップクラスのビジネススクールは、企業向けの研修に1日1000万円以上を課金するのが平均的となっている。安くて良いもの・良いサービスを提供するパラダイム(考えから)からそろそろ脱却する時期であろう。
IRがいくつもの課題を抱えているのは事実だが、開業するのであれば日本が発展するためのパラダイム変革を促すきっかけと位置づけてポジティブな波及効果をもたらしてほしい。