社会保障費の負担はどう変わるのか
では、こうした将来人口推計の「改善」傾向は社会保障にどのような影響を与えるだろうか。筆者はかつて「高齢者の社会保障を減らすと子の負担は増えるのか?」という記事で、現在のゼロ成長が続いた場合に人口動向が社会保障給付と負担に与える影響の試算を行なった。本記事でも同じ手法を用いて試算してみたい。
まず、t年現在の社会保障給付総額と社会保障負担総額は以下の式で表すことができる。
社会保障負担総額(t)=一人当たり社会保障負担額(t)×現役世代数(t)
=社会保険料率(t)×賃金(t)×現役世代数(t)
いま、経済がゼロ成長であると仮定して、社会保障給付総額について2020年と2045年のそれぞれの式に書き換えると、以下となる。
社会保障給付総額(45)=一人当たり社会保障給付額(45)×高齢世代数(45)
ただし、ゼロ成長下のもとで一人当たり社会保障給付額を増やし続けるのは困難であり、一人当たり社会保障給付額(20)=一人当たり社会保障給付額(45)と考えれば、
となるので、45年の社会保障給付総額は
と書ける。
同様に、社会保障負担総額について20年と45年のそれぞれの式に書き換えると、以下となる。
社会保障負担総額(45)=一人当たり社会保障負担額(45)×現役世代数(45)
ただし、内閣府が推計するように今後もほぼゼロ成長が続くものと仮定すると、賃金(20)=賃金(45)となる。このとき、45年の社会保障負担総額は少なくとも20年の社会保障負担総額に等しくなければならないとすれば、
となるので、45年の一人当たり社会保障負担額は
と書ける。
つまり、一定の仮定の下では、2045年時点の社会保障給付総額も一人当たり社会保障負担額も、高齢世代と現役世代の人口比倍になると考えてよいことが分かる。
2045年に高齢世代の社会保障給付35%減の可能性も!
総務省統計局「人口推計」及び国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計」によれば、各時点の高齢世代数(65歳以上人口)及び現役世代数(18歳から64歳人口)は、高齢世代数(20)=35,336(千人)、高齢世代数(45)=39,451(千人)、現役世代数(20)=69,616 (千人)、現役世代数(45)=55,966 (千人)である。45年の社会保障給付総額は20年の社会保障給付総額の1.12倍となる。一方、45年の一人当たり社会保障負担額は20年の一人当たり社会保障負担額の1.24倍となる。
いま、社会保障給付総額の自然増加に合わせて社会保障負担を増やすとなると、45年時点の現役世代の一人当たりの負担は1.12×1.24=1.39倍となる。一方、現役世代の負担能力に合わせて社会保障給付を削減するとなると、45年の現役世代数は20年の0.8倍のため、45年時点の高齢世代の一人当たりの給付は0.80÷1.12=0.65倍となる。
つまり、今現役世代である私たちが高齢者になった時、今の高齢者と同じ社会保障の給付水準が享受できるためには、その時の現役世代に今の現役世代の1.39倍もの負担増をお願いしなければならない。今の現役世代でも生活にゆとりがないのだから、これではその時の現役世代はとてもではないが生活できないだろう。