2023年6月7日(水)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2023年5月16日

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片野 歩 (かたの・あゆむ)

水産会社社員

東京生まれ。早稲田大学卒。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『日本の水産資源管理』(慶應義塾大学出版会) 『日本の漁業が崩壊する本当の理由』『魚はどこに消えた?』(ともにウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著、『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

瀬戸内海(愛媛県)と太平洋(宮城県)のヒラメで比較してみた

 下のグラフは、青が愛媛県、赤が宮城県のヒラメ漁獲量推移を示しています。1990年前半くらいまでは同じペースで推移していました。そして「劇的」に変ったのが2011年以降の漁獲量です。

(出所)農水省と愛媛県のデータを基に筆者作成 写真を拡大

 東日本大震災で、宮城県のヒラメ漁業は一時的に減少しました。その影響で、その後、劇的に資源量が増えて、漁獲量が増加したのです。

ヒラメも漁獲枠がない(筆者提供)

 一方で、愛媛県では漁獲量の減少傾向が続いています。また残念なことに、すでに宮城県では、震災後に一時的に増加した資源量は、再び減少しています。

 同県では、マダラ(リンク)も震災後に資源量が急激に増えました。しかしながら、科学的根拠による漁獲枠がなく、小さなマダラまで獲り続けてしまい、震災前の低水準に逆戻りしてしまいました。

 愛媛県と宮城県は、このままでは同じように資源が減少して、漁獲量が減っていくことになります。なお念のためですが、宮城県の沿岸で中国船や韓国船はヒラメを漁獲していません。

瀬戸内海(愛媛県)と太平洋(宮城県)のガザミで比較してみた

 次にガザミ類の例です。青の愛媛県の漁獲量は減少傾向が続いていますが、赤の宮城県は、一時劇的に増えたことがわかります。宮城県で激増した原因は2011年の東日本大震災でした。

(出所)ガザミ類の農水省と愛媛県のデータを基に筆者作成 写真を拡大

 それまでも、微量のガザミは漁獲されていましたが、一気に漁獲量が増えました。しかしながら、再び減少傾向となっています。

 上述の大震災後、一時的に宮城県のマダラ、ヒラメと同じパターンです。科学的根拠に基づく資源管理ではなく、「自主管理」では、同じパターンで再び悪化してしまうのです。

 そして悪化した要因が、乱獲以外の原因に責任転嫁されてしまうので、一向に改善しません。なおこれは、漁業者ではなく、制度の問題です。


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