2024年11月22日(金)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年5月22日

 そもそも、森林の管理は、森林生態系に基づく科学的理論が根底になければならない。森林生態学における「森林(林分)の発展段階」によれば、発達段階は、概ね10年生までの「林分初期段階」、50年生までの「若齢段階」、150年生までの「成熟段階」、150年生以上の「老齢段階」と区分されている。この見方では、若齢段階の主伐は「短伐期」と規定される。

 では、短伐期皆伐の何が問題なのか。右図を参照してほしい。若齢段階で主伐する短伐期は、木材としての生産機能(純生産量)はある程度満たすものの、そのほかの機能は低い水準にとどまり、総じて森林管理という点では問題が多い。一度皆伐してしまうと、あらゆる機能が低下し、回復するまでに相当の時間がかかってしまう。

 本来は、地域ごとに経済的機能を持つ生産林と環境機能を重視する環境林を明確に分け、それぞれの目標林型に応じて施業をする過程で、短伐期皆伐を選択するのであれば理解ができる。しかし、全国一律に短伐期皆伐路線を推進していては、日本の森林はやがて荒れ果ててしまうだろう。

森林法制を早急に転換し
持続可能な森づくりを

 先述の通り、21年計画では「グリーン成長」へと転換し、それを「新しい林業」で実現させると打ち出した。そこには、「エリートツリーや自動操作機械などの新技術を森林施業に取り入れ、伐採から再造林、保育に至る収支のプラス転換を目指す」ともある。エリートツリーとは、成長速度に重点を置いて選抜された優良個体であり、30年の伐期が想定されている。これは実質的に、自動化機械で省人化しながらエリートツリーを超短伐期で収穫するという強力な産業政策である。

 結局、21年の計画もグリーン成長路線への転換と見せかけた「林業の成長産業化」路線の継承・強化であり、「持続可能な森林管理」とは相反するものと言わざるを得ない。

「林業の成長産業化」政策の根拠となっているのは、「森林・林業基本法」とそれを支える「森林法」である。これらの根拠法を変えなければ、林野庁の政策を変えることは困難であろう。そのためにも、「持続可能な森林管理」の考え方を基本とした森林法制への転換が不可欠だ。

 産業的にみると林業は、特殊な条件下でなければ成り立たないことを前提としなければならない。地域政策(山村政策)・環境政策として、欧州連合(EU)の農業政策で所得補償などを実施している「条件不利地域論」や前出の「デカップリング論」を取り込み、国民の森林への関心を高めるために「入林権」(一般市民がレクリエーションなどで森林に入ることを認める権利)も保証することが必要だ。法律の根源的な見直しには数年単位の時間は必要だろうが、政治の決断次第でそれは可能である。

 森林を巡る諸問題の解決は林野庁や林業関係者だけに委ねるべきものでない。多くの国民が関心を持ち、国民的な議論が巻き起こることを期待したい。(聞き手/構成・編集部 大城慶吾、鈴木賢太郎)

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2023年6月号より
瀕死の林業
瀕死の林業

「花粉症は多くの国民を悩ませ続けている社会問題(中略)国民に解決に向けた道筋を示したい」

 岸田文雄首相は4月14日に行われた第1回花粉症に関する関係閣僚会議に出席し、こう述べた。スギの伐採加速化も掲げられ、安堵した読者もいたかもしれない。

 だが、日本の林業(林政)はこうした政治発言に左右されてきた歴史と言っても過言ではない。

 国は今、こう考えているようだ。

〈戦後に植林されたスギやヒノキの人工林は伐り時を迎えている。森林資源を活用すれば、林業は成長産業となり、その結果、森林の公益的機能も維持される〉

「林業の成長産業化」路線である。カーボンニュートラルの潮流がこれに拍車をかける。木材利用が推奨され、次々に高層木造建築の施工計画が立ち上がり、木材生産量や自給率など、統計上の数字は年々上昇・改善しているといえる。

 だが、現場の捉え方は全く違う。

 国が金科玉条のごとく「林業の成長産業化」路線を掲げた結果、市場では供給過多の状況が続き、木材価格の低下に歯止めがかからないからだ。その結果、森林所有者である山元には利益が還元されず、伐採跡地の再造林は3割しか進んでいない。今まさに、日本の林業は“瀕死”の状況にある。

 これらを生み出している要因の一つとして、さまざまな形で支給される総額3000億円近くの補助金の活用方法についても今後再検討が必要だろう。補助金獲得が目的化するというモラルハザードが起こりやすいからだ。

 さらに日本は、目先の「成長」を追い求めすぎるあまり、「持続可能な森林管理」の観点からも、世界的な潮流に逆行していると言わざるを得ない。まさに「木を見て森を見ず」の林政ではないか。

 一方で、希望もある。現場を歩くと、森林所有者や森林組合、製材加工業者など、“現場発”の新たな取り組みを始める頼もしい改革者たちの存在があるからだ。

 瀕死の林業、再生へ─。その処方箋を示そう。


新着記事

»もっと見る