ざっくりまとめるとこうなるのだが、なぜこれが問題視されるのか、日本人から見ると理解できないのではないか。知人の中国人曰く、日本だと「あなたは犬っぽいよね」などと言っても問題にはならないが、中国だと怒り出す人も多い。犬畜生呼ばわりとは何事だというわけだ。
というわけで、犬を人民解放軍になぞらえるのは許せないと感じる人もいるだろうとのこと。ただ、失礼な発言とはいえ、そんなにみなが激怒するような話かは疑問だという。
中国ならではの炎上〝要因〟
実際、録音されたトークを聞くと観客は爆笑している。笑える範囲だと思った観客が大多数だったのだろう。おそらく何度も繰り返したネタだが、5月13日の公演までは問題視されることもなかった。
ではなぜ今回炎上したのかというと、観客の一人が「全体的には面白かったけど、このくだりは気になった。悪意がないなら今後はやめるべきだし、もし悪意があるなら自殺行為だ。人民解放軍の兵士を侮辱するものだから」とソーシャルメディアに書き込んだところ、著名ネットユーザーが取りあげ、その騒ぎをメディアが記事にし……と、雪だるま式に拡大して騒ぎとなった。
「そんな騒ぐような話だったっけ?」という話題がネットのおもちゃとなっているうちに大騒ぎになる。この図式そのものは日本人にもおなじみのものだが、中国ならではの特徴が検閲だ。
政府批判や社会問題への言及は、ソーシャルメディアの自主規制や政府の検閲によって燃え広がらずに鎮火してしまう。書き込みが消されることもあるし、人々の目に話題が触れないよう隠蔽されることもある。
大きいのがソーシャルメディアやニュースサイトの話題ランキングに入るか入らないかだ。中国政府の怒りに触れるネタはランキングから消されてしまう。というわけで、バズるのは愛国心の発露、売国奴叩き、中国人差別への反発といった〝中国版ポリティカル・コレクトネス〟ばかりとなる。
たとえば今年4月の独BMW傘下の自動車ブランド「Mini」の炎上だ。「上海モーターショーのブースで来場者にアイスを配っていたが、中国人にはもう品切れと説明していたのに、外国人には配り続けていた。中国人差別だ!」という動画がソーシャルメディアでバズって大騒ぎとなった。
Miniは配布中止後に「アイスを受け取ったのはスタッフだ」として差別はなかったと説明しつつも、不快感を与えたと謝罪した。しかし、これで炎上は収まらず、不買運動の呼びかけなど騒ぎは続いた。
こうした動きはついつい「中国人の愛国心が暴走」と読み取られがちだが、根本にあるのはネットのおもちゃにしてわいわい騒いでいるという点だ。特に注目を集めてなんぼのインフルエンサーにとっては露出する格好のチャンスとなる。Miniのアイスについても、著名ネット配信者の辛巴(シンバ)が、代わりにオレが中国人にアイスを配ると自腹で600万元(約1億2000万円)のアイスを配布するパフォーマンスで話題となっていた。
「パンダ」と「スラムダンク」の違い
中国では定期的にこうしたネット炎上が起きている。日本ではあまり大きく報じられていないが、中国でかなりの話題となったのが米メンフィス動物園のパンダ「丫丫」(ヤーヤー)の帰国だ。
中国では今春からパンダがブームとなっている。上野動物園のシャンシャン返還と日本人のパンダ愛が報じられたことがきっかけとなった。その流れで炎上したのがヤーヤーだ。
痩せこけ毛が抜けている姿に「米国で虐待を受けている」という話となってしまった。4月末に20年間の貸し出し契約が満了し中国に帰国したが、メディアで一部始終が中継されるなど、ビッグニュース扱いとなった。