2024年5月5日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月29日

 4月12日に中国側が実施を公告した「調査」は、中国の業界団体からの申請で、中国の「対外貿易法」に基づき、中国から台湾への輸出に対して台湾側が貿易制限的措置を取っていないか調査するというものである。調査は原則6カ月後の10月12日までに行われるが、特別な事情がある場合に3カ月延長され、来年1月12日まで行われ得る。その場合、この記事が指摘するように、翌日の1月13日は、台湾総統選挙の予定日に当たる。これに対し、台湾側は、「貿易問題を複雑化して世界経済の発展を妨げるべきでない」とし、「必要ならば前提条件を設けずに、貿易協議を行うことも歓迎する」と表明している。

 まず、中国側の対応が「注意深い」ことに注目すべきだろう。ペロシ下院議長の訪台の際には、即座に台湾からの一定品目の「輸入禁止」に動いた中国は、蔡英文訪米とマッカーシー下院議長との会談に対する今回の対応は、中国からの輸出に対する台湾による貿易制限的措置の「調査」である。もちろん、その結果として、今後報復的に台湾からの対中輸出が制限される可能性は有るが、圧力の掛け過ぎは台湾総統選挙で民進党に有利に働くという考慮があるのかもしれない。ただ、調査期間が総統選挙前日まで延長され得るというのは、中国側の政治的意図を排除し得ない。

 次に、台湾側は、前提条件なしの貿易協議を提案するなど、冷静に対処している。このような抑制的対応は、不要な緊張激化と紛争発生の可能性を低減させる上で有効であろう。

 そして、このような中台間の経済的緊張の繰り返しにより、この記事が指摘するように台湾経済の対中依存度が全体として低減してくことは歓迎すべき動きだろう。

台湾のTPP参加申請にどう対応するか

 米国がこの機会を活用して、台湾からの投資を増やすのも良いことだ。米国が台湾と包括的租税協定を結んでいなかったのは驚きだ。日本は、2015年に日本側の窓口機関・日本台湾交流協会と台湾側の窓口機関・台湾日本関係協会との間で民間取極めとして租税協定相当の約束をし、2017年1月から国内法上実施されている。米国も早急な対応が望まれる。

 それ以上に、台湾の貿易先多様化を考える上では、環太平洋経済連携協定(TPP)に対する台湾の参加申請にどう対応するかは重要な課題だ。米国も、台湾からの貿易と投資を増やし、友好国と供給網を再構築する「フレンド・ショアリング」を進めたいのであれば、TPPに関する対応を進める必要があることを改めて指摘しておきたい。

   
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