2024年12月13日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月9日

 5月14日に行われたタイの総選挙では民主派が圧勝した。米ワシントン・ポスト紙の5月16日付社説‘Thai vote shows deep desire for change — if the generals will allow it’は、タイの国軍は民主化を望む国民の声を潰すべきではなく、米国を初めとした民主主義国は、そのような事にならないよう監視するべきである、と主張している。

第一党となった前進党党首のピタ氏(Sirachai Arunrugstichai / ストリンガー/gettyimages)

 4000万人のタイ人が5月14日の下院選挙で明確なメッセージを発した。2014年以来、タイを支配している将軍たちは人々の明らかな選択を尊重するべきである。

 民主派の勝利は、世論調査から予想されていたが、その勝利の度合いは圧倒的である。下院500議席の内、都市部を地盤とする民主派の前進党は151議席を獲得し、その次に亡命中のタクシン元首相の政治的な道具であるタイ貢献党が141議席を獲得した。タクシンの政党は、過去20年間、選挙で毎回勝利して来たが、軍部は裁判やクーデターにより同党が政権をとるのを度々阻止してきた。現在のタイ貢献党はタクシン元首相の娘のペートンタンが率いている。

 マイナーな野党も良くやった。民主主義を支持する政党は、変革のための陣営を作るために協力するであろう。そして、最大の敗北者はプラユット首相だ。彼のタイ団結国家建設党は第5位となった。明らかにプラユット首相をタイの有権者は拒絶した。

 軍部としては、前進党もタイ貢献党も受け入れられない。タクシン元首相とその妹のインラック前首相は、国外追放されているが、将軍たちは、特にタイの東北地方の貧しいタイ人の間で人気のあるタイ貢献党を嫌い、恐れている。さらに前進党は、徴兵制の廃止、厳格な不敬罪の見直しを公約しており、軍部とタイの保守層にとってより大きな脅威となっている。

 タイでは、選挙で明らかに拒否されても、軍が大人しく兵舎に戻るのが当たり前ではない。軍は人々の意向を押しつぶすことがまだ可能だ。多くのタイ人は選挙の結果に高揚しているが、一部の人々は警戒している。

 また、米国を初めとする民主主義国の指導者たちは注意深く見守っており、そうする必要がある。隣国のミャンマーでは、アウン・サン・スーチー氏が率いる国民民主連盟が2020年11月の総選挙で圧倒的に勝利をしたが、たった3カ月後に軍が権力を掌握し、選挙結果を無効にしてしまった。以来、ミャンマーは内戦状態が続いている。タイの将軍たちは、自国の正当な選挙結果を覆そうと考えるならば、この悲劇を肝に銘じるべきである。


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