2024年11月24日(日)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年7月27日

 とりわけ注目を集めているのが、フロリダ州知事のロン・デサンティス氏である。デサンティス氏は24年大統領選挙の共和党候補のうち、ドナルド・トランプ前大統領に次ぐ2位の支持を得ているが、予備選挙で勝利するには党内保守派の支持を固める必要があることから、文化戦争を積極的に仕掛けている。

 22年には、小学校低学年までの子どもに対して性的指向や性自認についての議論を学校の授業で行わないよう規定する州法(教育における親の権利法)を議会共和党とともに通過させた。同法を反対派が「ゲイと言ってはいけない法」と呼んで批判するのに対し、賛成派は反グルーミング法と呼んでいる。グルーミングという言葉には、子どもを性犯罪や人身売買の目的で誘い手懐けるというニュアンスがあり、性的指向や性自認に関する教育は性犯罪を誘発する、というニュアンスが込められている。

 そして、この法律をウォルト・ディズニー社が批判したのを受けて、デサンティス氏は、フロリダ州がディズニー・ワールドに長らく認めてきた税制優遇措置と特別自治権を剥奪する州法に署名した。デサンティス氏とディズニー社が中絶問題などをめぐっても対立しているのである。

 最近では、デサンティス氏の支持者が、トランプ氏が「LGBT市民を全力で守る」と演説する場面を批判的に取り上げた後、男らしさを象徴するような筋骨隆々の裸の男性とデサンティスを重ね合わせ、性的マイノリティと闘うデサンティスを応援する動画を公表した。この動画をデサンティス陣営がリツイートしたことが、同陣営の同性愛嫌悪の姿勢を示しているのではないかと批判されている。

 共和党最大のLGBT団体ログ・キャビン・リパブリカンズなどが怒りの声明を発表する中、デサンティス氏は、トランプ氏を批判するのはフェアだと発言するなどして、火に油を注いでいる。

 このような動きが顕在化する中、とりわけ昨年に中絶の権利を否定する判決が出されて以降、同性婚の権利も近く否定されるのではないかとの懸念が表明されている。

差別の許容か、言論・表現の自由か

 このような状況で6月30日に、冒頭で紹介した判決が出された。

 デンバーに拠点を置くウェブデザイナーで福音派のローリー・スミス氏は、自社のウェブページを作成する際に、「誰が依頼者であっても、聖書に書かれた真実と矛盾していたり、誰かを貶めたり侮蔑したり、無神論やギャンブルを推進したり、胎児の命を奪うよう主張したり、一人の男性と一人の女性から成るもの以外の結婚を推進するような依頼はお断りします」という内容を掲載しようと考えていた。だが、コロラド州がいかなる性的指向を持つ人に対しても同じサービスを提供するよう州内の企業に義務付けていることから、州法違反の批判を受けることを恐れて掲載を見送った。

 そして、同州法がある限り、結婚は男女の間でのみ行われるべきだという自らの宗教的信念に反する仕事を強いられる可能性があると考え、コロラド州法は言論・表現の自由を定めた合衆国憲法修正第一条に違反しているとして訴訟を提起した。

 スミス氏の立場に批判的な人々は、仮にウェブデザインをスミス氏が行ったとしても、依頼者のホームページ上に掲載されるメッセージは依頼者のものであり、営業している以上は全ての人に対してサービスを提供するのが当然だと主張している。これに対してスミス氏は、同性愛者からの仕事の依頼自体を拒否することはないが、同性カップルに協力することは同性婚への支持表明を間接的に強いられることになると主張している。


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