2024年6月17日(月)

キーワードから学ぶアメリカ

2023年7月27日

 判決文を書いたニール・ゴーサッチ判事は、政府は売り手に対し、自らが賛同しないメッセージを掲げる商品を作成するよう命じることはできないと判示した。憲法修正第1条は米国を、全ての人が政府に強要されずに自由に考え、話すことができる場所だと想定しているとも記している。

 だが、反対派はこの結論に強く反発している。ソニア・ソトマイヨール判事は反対意見で「最高裁判所は歴史上初めて、一般に公開されている企業に対し、法で保護された社会の一員にサービスの提供を拒否する憲法上の権利を認めた」とし、差別を許可する判決だと批判している。

 実は、同様の訴訟はこれまでも何度も提起されてきたが、従来の判決は、同性カップルの権利と言論・表現の自由との対立をめぐる判断を回避してきた。仮に言論・表現の自由を根拠に同性カップルの依頼を拒めるということになると、異人種間結婚に反対する人がいる場合に異人種間結婚をする黒人が同様のサービスを求めてきた時にも拒否できるのか、など、問題が広がる可能性があることが恐れられたのだと考えられている。だが、ゴーサッチ判事による判決文ではその論点には触れられていない。

今後の影響は?

 先ほど、同性婚の権利が近く否定されるのではないかと危惧する人がいると指摘した。ジェンダーやセクシュアリティという米国社会の分断を発生させている争点について、昨年の中絶権を否定する判決に象徴されるように連邦最高裁判所が保守的な判決を出し続けている状況では、そのような不安を抱く人がいても不思議ではないだろう。今回の判決を受けて、その恐れが強まったと指摘する人もいる。

 だが、中絶権はプライバシーの権利、今回の判決は言論・表現の自由、同性婚は平等権をめぐる問題として法的な議論が構成されているため、今回の判決と同性婚の権利の議論は様相が異なっている。また、今年の最高裁判所の判決は、基本的には世論の動向を意識して下されている。

 ギャラップ社によると、同性婚を認める人の割合は23年の調査では64%であり、22年の71%から低下しているとはいえ、半数を超えている。今年、同性婚法制化の動きがあった際には、共和党議員の中にも賛同者がいた。連邦最高裁判所の保守化傾向が鮮明になりつつあるとはいえ、同性婚の権利は今後も維持されるだろう。

 しかし、本判決を含む最近の判決は、24年大統領選挙と連邦議会選挙に際して、リベラル派が結集する可能性を高めたと考えられる。連邦最高裁判所は例年重要判決を6月後半から7月初旬に出しているが、23年に出された判決はほぼ一貫して保守的な内容となっている。

 最高裁判所が出す判決は人々の権利の内容を確定するものであり、連邦議会や大統領が法律や大統領令でその内容を覆すのは容易でない。連邦裁判所の判事の任期は終身であり、欠員が生じた場合は、大統領が後任を指名し連邦議会上院が承認した場合に任命される。最高裁判所による決定の影響力の大きさを考えると、今後は連邦裁判所の判事の構成の問題を念頭に置いて選挙に臨む人が増えるかもしれない。

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