日本の自動車は電気自動車(EV)化で世界の潮流から遅れているという記事をよく見るが、実はもっと遅れている分野がある。それは、ガソリンに混ぜる植物由来のエタノールの普及が遅々として進まないことだ。
米国やブラジルではガソリンにエタノールを10%混ぜた「E10」と呼ばれるバイオ燃料が一般的に普及している。日本が脱炭素を目指すなら、もっとエタノール燃料に注目すべきではないだろうか。
中川物産が全国初の「E7」販売
名古屋を拠点に石油製品の輸入・販売を手掛ける中川物産(名古屋市)が6月8日、名古屋市内の名港潮見スタンドで全国に先駆けて「E7」ガソリンを販売し始めた(写真1)。「E7」はエタノール(Eはエタノールの頭文字)を7%混ぜたガソリンのことだ。
同社の油槽(ゆそう)所でエタノールとガソリンを直接混合している。エタノールは米国からの輸入だが、「E7」は中川物産のオリジナルガソリンで、全国でもここしか扱っていない。
この中川物産の脱炭素に向けた先駆的な取り組みに感謝の意を表明するため、7月31日、ラーム・エマニュエル駐日米国大使が中川物産の名古屋本社を訪れ、社員から大歓迎を受けた(写真2)。エマニュエル大使は「米国ではエタノールを10%混ぜたバイオガソリン『E10』が普及している。エタノールは環境によく気候変動対策になるだけでなく、ロシアからの石油に頼らずに済むため、日本のエネルギー安全保障の強化にもつながる。エタノールは日米間の頼れるエネルギー資源だ」と熱く語り、今後、日本にエタノールが広く普及することに期待を寄せた。日本へ輸出する余力はあるという。
「E7」の価格は1リットル(ℓ)162円(7月31日時点)。従来のガソリンより1円安く設定している。価格が安く、環境にもよいとあって、6月の販売数量は約4000ℓと順調な滑り出しだ。当面は愛知県内の20店舗に販売網を拡大するのが目標という。
実は、同社はすでに2011年から全国に先駆けて、愛知県を中心に約100店舗で「E3」を販売していた。これも全国初の快挙だったが、マスコミはほとんど報道していない。
今度の「E7」の販売は地元名古屋のテレビ局などが報じたものの、全国的にはいまも知られていない。「E7」は、車の給油口に「バイオ混合ガソリン対応車」と表示されたシールがあれば、どの車でも利用できる。
「E7」の販売は、日本に限れば、パイオニア的な先進例である。それがなぜ、重要かといえば、エタノールはカーボンニュートラルな燃料だからだ。
エタノールは、トウモロコシやサトウキビなど植物の糖分を発酵させてつくる。そのエタノールを車の燃料として使えば、走行中に二酸化炭素(CO2)は発生するが、そのCO2はもともと植物が光合成で大気から固定したものである。つまり、CO2は増えも減りもしない(カーボンニュートラル)。このため、エタノールをガソリンに混ぜれば、その混ぜた分だけガソリンが節約され、CO2の発生が減ることになる。