23年1月18日に東京都内で「G7広島サミットへ、バイオマスの役割」と題したシンポジウムが行われた。米国ワシントンに本社を置き、アジア太平洋地域に特化した戦略アドバイザリー会社の「バウワーグループアジア日本」(BGA)が主催した。そこで甘利氏は次のように熱く語った。
「今後も何十年間は、車全体のうち9割近くは中古のガソリン車が占める。しかも飛行機やトラックのEV化は難しい。エタノール燃料を使えば、むしろ電気自動車よりもカーボンニュートラルといえる。エタノール燃料をつくる技術はすでに完成されているため、日本の耕作放棄地にバイオ燃料用の作物を植えて有効利用すれば、農業とバイオ燃料がつながる形で新たな産業が生まれる」
甘利氏は「EV化の流れは、欧州連合(EU)が日本の車産業をつぶすという意向で生まれたものだ」との見解も述べた。欧米先進国や中国は、ガソリン車では日本に勝てないのでEV化で日本を引き離すという見立ては他の識者からもよく聞く。その通りだろう。
だとすると、トヨタのプリウスのようなハイブリッド車がエタノールをより多く混ぜた、たとえば「E85」といったバイオガソリンで走れば、電気自動車よりも脱炭素の優等生といえるのではないか。
コメの国産エタノールで新たな産業が生まれるか
甘利氏が述べたように、日本でエタノールをつくるとしたら、その原料は日本の風土気候に適したコメしかない。実は日本でも過去にコメからエタノールをつくる実験プロジェクトが約10年前に新潟や北海道などで行われたことがある。しかし、コメの生産コストが高く、成功しなかった。
ところが、最近になって、狙った遺伝子を書き換えるゲノム編集技術を用いて、超多収性のコメ(写真3)が誕生している。生物系特定産業技術研究支援センター(生研支援センター)の戦略的イノベーション創造プログラムなどによる研究成果もあり、コメ粒が大きく、籾の数も従来より多いコメが生まれた。収量は10アール(a)あたり約1.2トン(t)(1ヘクタール〈ha〉あたり約12t)と従来(平均収量は約0.53t)の2倍近くもある。
仮に日本全国にあるとされる約42万haの耕作放棄地に多収米(1haあたり10tと仮定)を植えれば、約190万kℓのエタノールが生産できる(アメリカ穀物協会の「バイオ燃料検討会」報告書参照)。これは日本で消費される全ガソリンの約4%に相当する。小さく見えるが、「E7」を普及させるには十分な量だ。
問題は水田の確保だ。残念ながら、日本の水田面積は減り続け、1960年代には約340万haあったが、2022年には約235万haに減った。50年間で100万haも消失したのだ。減反に次ぐ減反政策のせいだが、水田を「油田」とみて、エタノールを生産すれば、いまだ実質的には続けられている生産調整を終わらせる絶好のチャンスになる。
水田が増えて、コメの生産量が上がれば、食料自給率は上がる。しかも、水田は環境保護の面で多様な機能を発揮する。洪水時のダム機能、地下水の涵養、生物の多様性、日本の原風景の維持など、よいことづくめだ。
エタノールの原料とはいえコメなので、いざとなれば食料に回せばよい。食料安全保障の強化にもなるし、もし余れば、輸出に回すことも可能だ。
コメとエタノールとテクノロジーがつながれば、日本の自動車産業を支える新たな産業が生まれるチャンスになるのではないだろうか。