「特殊な眼」をもつ遠藤保仁選手
そこで注目したいのは、「スポーツビジョン」だ。単なる視力だけでなく、動くものを正確にとらえる「動体視力」、目に飛び込んだ情報を瞬時に把握する「瞬間視」などスポーツに必要な視力のことをいう。選手が入り乱れるピッチで、複数の選手の動きを瞬時に把握し、わずかなスペースを見つける能力である。
東京メガネと連携し、多くのアスリートの能力を調べるスポーツビジョン研究会代表の真下一策さん(医師)は「スポーツ選手の情報の99%は眼から得ている。情報収集や予測には、高いスポーツビジョンの能力が必要だ」と強調する。
スポーツビジョン研究会によると、スポーツに必要な視力には8項目があるが、真下代表らがJリーグ(48選手)のトップ選手と、格下の選手を比較すると、8項目のうちトップ選手が優れていたのが「深視力」だった(図1)。「サッカーでは選手の位置関係を立体的にとらえ、どこにスペースがあるかを察知する能力」である。
この能力に優れ、「特殊な眼」を持っているのが、日本代表のヤットこと、遠藤保仁選手だ。
著書『眼・術・戦』(遠藤保仁、西部謙司著、KANZEN)によれば、「ピッチでは(自分以外の)21人をできるだけみている」と語り、常に立体的な位置関係を俯瞰しながらプレーしていることがわかる。
その上で、「パスを受ける前に3つ、4つのプレーを考えている」とし、「ボールにタッチする前に、状況を確認する。(同時に).遠くを見る」という。このわずかな時間の情報収集とそれに基づく予測で、どのプレーを選択するかが決定される。その選択は時に、味方には理解されないこともあったと著書では語っているが、「周囲が同じ眼を持たない以上、自分のプレーが認められるまで待つしかない」という。練習などでの共有が大事ということだろう。ただ、今では理解されているともいう。
予測力をつけるとは
遠藤選手のコメントは、深視力によって、得られる情報収集が、鋭いパス回し、攻撃、ディフェンスにおいていかに大切かを物語る。
それと並んで重要なのが情報の質である。情報の質の高さに関わるのは視野の広さ。視野にはものがはっきり見える「中心視野」と、ぼんやりしている「周辺視野」がある。特に相手の出方を予測するには、周辺視野の広さが重要になる。周辺視野が広ければ、パスする方向に眼を向けなくても、味方のちょっとした動きを見ただけで、予測した先にボールを出す「ノールックパス」につながる。