生命保険料控除は、支払った生命保険料金額のうち全額が控除の対象となるわけではない。この3万円の例では支払保険料の2分の1+1万円=2万5000円だけが控除対象となる。さらに、ふるさと納税は「税額控除」であるのに対して、生命保険料控除は課税対象となる所得から控除される「所得控除」であるため、最終的な納税額に与えるインパクトはふるさと納税よりもかなり小さくなる。
会社員の給与所得の場合、基礎控除や給与所得控除、社会保険料控除などで直面する税率は高くとも20%、多くのケースで10%とすれば、2万5000円の所得控除によって、最終的に還付される税金はその10%の2500円か、20%でも5000円となるのである。すなわち3万円の保険料のうち2500円分しか税の還元はない(もちろん、保険に入ったことで万一の場合に保険金が受けとれるメリットは十分にある)。
これに対して、ふるさと納税では3万円の寄附に対し2万8000円の税の還元がなされ、かつ1万円相当の返礼品が受け取れるとすれば、最終収支は8000円の得となる。
したがって、ある意味では個人にとっては実質的な元手ゼロの錬金術のような制度である(ただし、支払うべき所得税・個人住民税以上に控除はできないので注意。寄附の限度額の目安は総務省「ふるさと納税ポータルサイトへ」)。
以上の個人的なメリット感もあり、22年度のふるさと納税の実績は、約9654億円(対前年度比:約1.2倍)、約5184万件(同:約1.2倍)と伸びている。
自治体にとってのふるさと納税
次に、このふるさと納税を自治体の側から見てみよう、表1は2022年度の寄附受入額ベスト10の自治体である。
ベスト10までの顔ぶれは、昨年とほとんど変わらず常連化しているといえるだろう。ただし、第6位の佐賀県上峰町は受入金額を昨年の2倍以上に増やし、20位から一気にベスト10入りする躍進である。同町は、町のプロモーションの一環としてアニメーション『鎮西八郎為朝』(ちんぜいはちろうためとも)をWEB上で公開した効果も大きいといわれている。
さて、個人にとっては2000円を払えば、所得税・住民税の限度内で返礼品を受け取れるリスク・ゼロのプラス・サム・ゲームであるが、自治体側は、寄附を受け入れるメリットがある一方で、地元住民が他地域の自治体にふるさと納税をすると翌年の住民税の控除額が大きくなってしまうというリスクもある。そこで、同じ総務省資料から23年度の市町村民税控除額の多い自治体ベスト10を見てみよう(表2)。
表2を見てすぐわかることが、大都市圏の自治体ばかりであるということである。この意味で、ふるさと納税は表3に示された大都市の住民が表2に示された地方の自治体に寄附をしている傾向が見て取れる。
この中で目を引くのが京都市である。京都市は寄附受入ベスト10にランキングする一方、税収の流出を意味する住民税控除ベスト10にもランクされている。受け入れ額95億800万円から、住民税の控除額73億8700万円を引けば、純粋な受け入れ額は21億円余りにダウンする。
1位の横浜市は272億円の住民税が減収となる一方で、寄附の受入金額は4億円余りであったため、ふるさと納税による横浜市の純計は268億円の流出超過である。