2024年12月2日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月8日

 英エコノミスト誌8月12日号の記事が、パキスタンの前首相イムラン・カーンを政治の舞台から追放し、軍が以前にも増して政治への関与を強めるに至った経緯を解説している。要旨は次の通り。

2023年8月7日イムラン・カーン前首相を支持する弁護士たちが、カーンの投獄に対する抗議デモを行った。(写真:AP/アフロ)

 8月9日、2018年にイムラン・カーンを首相に選出した議会はその任期を終え、権限は選挙管理内閣に移譲されようとしている。他方、8月5日、パンジャブ州の刑務所では、腐敗の罪状によるカーンの3年の刑期が始まった。

 この有罪判決(これに伴い5年間、政治活動を禁止される)は、カーンと彼の政党PTI(パキスタン正義運動)を政治活動から排除するためのパキスタン軍のキャンペーンの成就と、将軍たちが政治により積極的に関与する時代の到来を意味する。

 カーンに対する選挙法違反を問うた有罪判決の性格は、カーンの本当の罪がパキスタン軍に対する挑戦であることを暗示する。カーンは前任者たちと同様、将軍のお気に入りとして出発したが、軍は彼の政治的スタンドプレーとパキスタン経済の管理の不手際に愛想をつかした。2022年4月、彼は不信任投票によって首相の座を追われた。

 前任者たちとは違って、彼は静かに消え行くことを拒否し、全国で多数の集会を行って将軍たちを攻撃し、昨年11月には彼等が自分を暗殺しようとしたと主張した。さる5月に一時逮捕されたが、これに誘発され、彼の支持者たちが軍の施設の破壊におよんだ。激怒した軍は彼の政党を解体し彼の支持者達を一斉検挙し、結局、カーンは捕らえられた。

 カーンの政治からの追放に伴い、軍はパキスタンのハイブリッド体制を決定的に自己に有利に作り替える野心的な計画に乗り出した。議会が解散する前に、相当数の法律が改正され、あるいは新たに制定されたが、いくつかの法律は新たな広範な権限を軍と情報機関に与え、公民権の団体の警戒心を呼び起こした。選挙管理内閣は国際通貨基金(IMF)と交渉し投資協定に署名する権限を与えられた。

 カーンと彼の支持者たちとの戦いに勝って意気上がる陸軍参謀長のムニールは、就任して9カ月を経て、ますます自信を強めている。彼は新設の経済評議会を率い、湾岸諸国に対しパキスタンの潜在的投資機会を売り込むことに忙しい。お金以上に、彼は湾岸諸国の政治的支持を狙っているかも知れない。

 パキスタンは恐らく経済発展の名目で市民的自由が制限されたコントロールされた民主主義という新たな政治秩序に向けて動いているだろう、との見方がある。慢性的に混乱しているパキスタンにあって、野心的な将軍にとり秩序は魅力的に思えるかも知れない。

*   *   *

 8月5日、イムラン・カーンは首相在任当時、外国から送られた贈呈品を不法に売却し、その利益を隠匿したとの罪状により、3年の刑を言い渡され、収監された。これを受けて、選挙管理委員会は彼の5年間の政治活動の禁止を決定した。さる5月、カーンの支持者達が暴徒と化して軍の施設を襲撃するという先例のない事態に当面したパキスタンの軍は、カーンと彼の政党PTI(パキスタン正義運動)を政治の舞台から追放することに決したのであろう。


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