2024年5月28日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年6月28日

 5月26日付の米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」は「南アジアでの核兵器を巡る衝突」との米ハドソン研究所シニアフェローのアンドリュー・クレピネビッチによる論説を掲げ、米カーネギー国際平和基金のアシュリー・テリスが新著で論じた、中国の核軍拡がインドとパキスタンの核軍拡と地域の緊張増大を誘発する可能性につき解説している。

(bogdanserban/vadimrysev/grebeshkovmaxim/gettyimages)

 テリス曰く、中国の急速な核軍拡で、数十年安定してきた中印パ3国関係が危険に瀕する瀬戸際である。印パが核兵器国化して以降、戦争も核軍拡競争もなく、各国は「最小限抑止」の核態勢をとり、核兵器の相当部分を地下施設などに貯蔵してきた。中印は核攻撃への早期反撃を必要と見做さず、早期警戒システムへの投資を避けてきた。だが、今や各国は自国の核態勢が不十分と確信し、相当の核軍備増強の方向に向かっている。

 中国の協力でパキスタンは「全段階的抑止」に移行しようとしている。通常兵力でインドに劣るパキスタンは核兵器以外対抗の選択肢がない。それには大幅な核軍拡が必要である。

 テリス曰く、中国の核軍拡自体はインドにとり高リスクではないが、中国の追加的行動でインドの自信が揺らぐ危険がある。中国は早期反撃能力の取得を目指しており、そのために多数の核兵器を高度警戒状況に置こうとする。中国の防空・ミサイル防衛が強化されれば、インドの核反撃能力は低減する。対中反撃に残存核兵器を使えば、インドはパキスタンの核恫喝の抑止能力を失う危険もある。

 テリスは、インドに中国同様の核軍拡は可能だが、現状でも敵に大損害を与える能力があり、最小限抑止戦略維持を選好すると見る。インドが中パ双方に大損害を与えるには一定の核軍備の増強が必要だが、そうなればパキスタンも追従するだろう。

 テリスは、インドの解決策は核搭載潜水艦部隊と移動可能発射台活用だと指摘する。しかし、中国の先制攻撃への対応には、早期警戒システムの開発や核搭載潜水艦の指揮統制構築などが必要だろう。インドは弾道弾装備原潜を建造中だが、原子炉設計などの技術的問題克服には時間が必要だ。インドの核実験数は水爆実証には不十分だが、核実験を再開すれば米国他の制裁リスクが生じる。

 テリスは興味深い解決策を示している。米国がインドに水爆設計情報を提供することだ。米英豪の安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」へのインドの参加や、米国が海軍用原子炉設計をインドと共有する可能性はないか。ただ、この実現には、インドが戦略的自律性を放棄する必要がある。

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 大変に興味深い論説である。アンディ・マーシャル元米国防総省総合評価局局長の下で長年ネット・アセスメント(総合的な観点からの軍事バランス分析)に携わった経験を持つクレピネビッチが、これも、長年、南アジアの戦略問題について、多くの素晴らしい論考を世に問うてきたテリスの著作を解説するのだから、役者が揃っている。


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