2024年7月22日(月)

Wedge REPORT

2023年9月7日

スギ・ヒノキ人工林由来の花粉が増大したわけ

 終戦後から高度経済成長期にかけて、拡大造林(里山などの広葉樹天然林を皆伐して、跡地にスギやヒノキを造林)を推進した。人工林は大幅に面積を増やしたから、当然その分だけ発生する花粉の量も増えたことは間違いない。

 以前、国の森林総合研究所に勤務していた時、研究者から興味ある話を聞いた。もともとその土地々々には固有のスギの品種があって、これを地スギ呼んでいる。かつてはそれぞれの土地で地スギの苗木を植えていたのだが、そのような造林方法であれば、発生する花粉の量は、現在の4割程度であっただろうと言うのだ。

 ところが、造林奨励政策によって苗木の需要量が増大すると、多量の種子が必要となった。種子は遺伝的に優れた品質の樹木からなる採種林や種子を採取しやすく仕立てた樹木を集めた採種園で採取された。

 必然的に種子が多くつく母樹から採種された種子が多くなってその子孫もふえる。そして種子の多くつく樹木は、花が多くつき花粉の生産量も多いから、花粉の生産量の多い樹木がどんどん増えていくことになった。

写真 2 湧き立つスギ花粉(飯能市、筆者提供)

 スギ花粉が多くの人々を花粉症で苦しめるなどと思いもよらなかった時代である。図らずも花粉量の多いスギをわれわれは選択的に造林していたことになる。

 この話を聞いて、筆者はその事実をなぜ発表しないかと糺(ただ)した。今さらそんな話をしても、「ハクション議連」の反感を買うばかりで何の益もないと言われた。

 筆者が林野庁に就職したのは1976年4月。すぐに高尾山で研修があった。壮齢人工林に差す陽光に無数の微粒子が舞っていた。

 翌年、四万十川流域で森林官をやっていたが、5メートルほどの高さのスギを揺らすと、煙が立つように花粉が飛散した。全体では山火事と見紛うばかりだった。

伐採量の倍増は事実上不可能

 「令和15年度(2033年度)までに、花粉の発生源となるスギ人工林を約2割減少させる」について、政府がどのような根拠に基づいているかは不明だが、筆者なりに推計してみる。数値は、林野庁作成の「森林・林業統計要覧2022」を使用した。

(出所)筆者作成 写真を拡大

 この表にはないが、皆伐可能なスギの人工林面積は440万ヘクタール(ha)(国土の12%、森林の18%)であり、その2割の88万haを10年間で伐採することになる。伐採対象は50年生以上の林分(りんぶん、一団となった同質の森林)として、その平均的なha当りの立木材積は500立法メートル(㎥)になる。そうすると、10年間の伐採量は500×88万ha=4億4000万㎥、10年間均等に伐採するなら年間の伐採面積は8.8万ha、伐採量は4400万㎥となる。

 ここで最新の立木伐採面積(全樹種込み)は8.7万ha、立木伐採材積(同)は4800万㎥であるから、偶然だろうが発生源対策によるスギの年間伐採量とほぼ同じになった。10年間でスギ人工林の2割を削減するなら、現在のすべての伐採面積、伐採量をほぼ倍増させる必要がある。


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