2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2023年9月7日

 現実的にこんなことできるはずがない。林業にはこのような急激な事業量増加に対応できる能力はない。

政策目標から消えたスギ面積の2割削減

 8月末に出された24年度の林野庁の概算要求をみると、〈政策目標〉として、「〇国産材の供給・利用量の増加(34百万㎥[令和3年]→42百万㎥[令和12年まで])」と「〇スギ花粉の発生量の削減(令和2年度比約2割削減[令和15年まで]、5割削減[令和35年まで])」となっていて、以前政府広報に掲げられていた「スギ人工林を約2割減少させる」が消えていた。さすがに面積での2割削減は荒唐無稽だと分かったのか、花粉発生量の2割削減に置き換わっていた。

 この2本柱は一見リンクしているように見せて、実は別物かも知れない。前者ではスギだけでなくすべての樹種を対象としているので目標達成はしやすいだろう。それでも毎年100万㎥の増加はかなりハードルが高い。

 そして、後者の花粉発生量の2割削減はまったく根拠不明で、どこにも説明がない。いくら林野庁でもこのようなメインテーマに事実と異なることを書くはずはないから、何かしら根拠はあるはずだし、国民に対して説明責任があるはずだ。速やかに明らかにすべきである。

 林野庁がHP上で公開している概算要求の説明資料を見ると、スギ花粉発生源対策を錦の御旗にして、かっこよくまとめ上げられている。予算要求のテクニックは実に上手いものだと感心する。しかし、A4版びっしり詰め込まれた文字からは、国民が一番知りたい真実が見えてこないし、肝腎なことははぐらかされているように思える。

 やはり現役時代に耳にした言葉、「よい予算はたった1行でも説明できる」がなされていないのではないか。

 無理な施策が、林業という経済行為を混乱させ、国土の保全や生態系に悪影響を及ぼして国民生活を危険にさらし、貴重な森林資源を浪費し、山村を危機に陥れる。次回これらについて検討してみよう。

『Wedge』2010年9月号特集「日本の林業『孤独死』寸前」に同誌の林業に関する記事を加えた特別版を、電子書籍「Wedge Online Premium」として、アマゾン楽天ブックスなどでご購読いただくことができます。
 
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る