米中貿易摩擦をはじめとする保護主義の拡大や2020年以降の新型コロナウイルス感染拡大に伴うサプライチェーンの停滞といった逆風が強まる中、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、域内の経済・金融統合を着実に進めてきた。
15年末に「ASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community:AEC)」が発足した時点で域内関税の撤廃による貿易自由化の点では既に高いレベルでの経済統合が実現していたが、その後、貿易円滑化についても長年の課題で前進した。加えて足元、金融分野 、特にリテール決済の連携でも進展がみられる。本稿では、パンデミックや世界の保護主義が拡大する中にあっても着実に前進してきたASEANの域内統合の進捗を概観したうえで、金融統合の一環であるリテール決済の連携に向けた取り組みについても詳しく紹介する。
中国やインドの台頭が
ASEAN経済統合の契機に
1967年に設立されたASEANは、「ASEAN自由貿易地域のための共通効果特恵関税(AFTA−CEPT)協定」(92年)および「ASEAN物品貿易協定(ASEAN Trade in Goods Agreement:ATIGA)」(2009年)に基づき域内の貿易自由化を進めてきた。03年には20年までの「ASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community:AEC)」などから成るASEAN共同体を創設する目標を打ち出した。
07年にはこれを5年前倒しして、15年までの実現を目指すことで合意した。AECについては、域内における物品(財)、サービス、投資、人の自由な移動により単一市場・生産基地を構築することで外資誘致を目指すものであり、中国やインドの台頭に対する危機感が背景にある。
ただし、AECは、欧州連合(EU)のような関税同盟や通貨統合を目指すものではなく、人の移動も熟練労働に限定するなど、日本が各国・地域と締結・交渉を進める経済連携協定(EPA)に近い形での連携・統合を志向している。