人口減少が避けられない日本に
蔓延する楽観的な予測
2022年の出生数は80万人を下回った。コロナ禍の影響で産み控えが広がったためだ。将来の人口規模を左右する合計特殊出生率は1.26と、近代人口統計史上これまで最低だった05年の水準に、再び戻ってしまった。
今年4月に国立社会保障・人口問題研究所から発表された将来推計人口では、合計特殊出生率は、一旦低下したのちに、30年代には1.3台に回復すると仮定しているが、果たして実現可能なのだろうか。子どもを持たない人々が増えると、子どもを持つ人々の負担感が増し、子どもを持とうとする意欲をさらに減退させるという「少子化の罠」から逃れられない日本で、人口減少は今後さらに加速すると覚悟しなくてはならない。
もっとも、人口の将来予測はこれから始まる政策の効果は考慮しない。これまでの人口を変動させる要素の趨勢を組み合わせて推計するものだ。だから必ずそうなるというものではない。
しかし現実を見れば、現在、取り組んでいる少子化対策が、人口減少のトレンドを短期間に逆転させる効果を持つとは考えにくい。
多くの自治体では地方創生をめざして人口の長期ビジョンを発表している。これは10年の国勢調査に基づく地域別将来推計人口(13年推計)を基に、60年の人口ビジョンを示したものである。共同通信による集計を基に、公表されていない自治体について筆者が推計で補ったところ、総人口は1億254万人になった(2060年A)。これは国の長期人口ビジョン(1億194万人)に近似している(2060年B)。だが、将来推計人口の8674万人(2060年C)と比べると、1500万人以上も多い。
総人口の将来推計値と地方人口ビジョンの推計値が大きく異なっているのは、各自治体が国の長期人口ビジョンが設けた、極めて楽観的な仮定を踏襲しているからに他ならない。それは少子化に歯止めがかかり、30年に国民の希望出生率(1.80)が達成され、40年までには人口置換水準(2.07)まで回復した場合を仮定したものである。この条件が整うならば、60年の総人口は1億人を維持でき、21世紀末に人口が定常状態になることを示しているに過ぎない。
しかし現実は、15年以後、出生率が低下を続けていて、コロナ禍という想定外の事態によってさらに押し下げられているのが現状である。長期ビジョンが掲げる期待値は到底実現できるようには思えない。つまり21世紀を通じて人口が減少するのを止めることはほぼ不可能ということだ。