2024年11月24日(日)

Wedge OPINION

2023年9月22日

 将来、出生率が十分に高くなるとしても、現実的な仮定に基づくなら、21世紀を通じて人口減少は続くものと見て、その現実を真正面から受け止めなければならない。また人口減少が止まって静止人口が実現したとしても、人口規模が現在よりも大幅に縮小することは避けられない。そうであるなら、人口が減少して規模が縮小したとしても、豊かで快適な社会を築く努力をするという道もあるのではないだろうか。人口減少社会への適応である。

 逆説的な見方だが、人口が減少しても豊かで、安心・安全で、快適な生活が保証されてこそ、出生率の回復につながると考えるべきではないか。

人口安定に向け
人口減少「適応」戦略の議論を

 人口減少による労働力の減少を補うために、これまでも女性と高齢者の労働力率の向上を図るとともに、まだ十分ではないとしても、外国人労働力の受け入れ体制を整えてきた。同時にロボットやAIの活用によって機械化と情報技術化を進めている。いずれの方法を取り入れるにしても、これまでの社会通念や制度を大きく変えるような考え方やライフスタイルの変革がなければ、労働力不足への対応はできない。

 さらに解決が困難な課題は人口分布の不均衡だ。人口減少は地方圏で特に深刻であり、コミュニティーが維持できなくなって地域消滅が懸念されている。都市部でも人口減少が始まっている。農山漁村における人口減少を集落の再編成によって対応する「計画的撤退」や、無秩序に拡大した都市圏の空洞化に対しては「コンパクト・シティ」、災害リスクの高い土地への居住・立地規制なども提唱されて久しい。ただし、人の移動、不動産の移転や利用制限は、コミュニティーや土地に対する心理的な結びつきもあって、なかなか受け入れられない側面もある。

 このような課題に対して国が全く無策だったというわけではない。国土交通省は国土総合開発法を改正し、初の国土形成計画を08年にまとめた。量的拡大を目指す開発主義から、人口減少が不可避の成熟社会にふさわしい国土計画を目指したものである。今年7月には、3回目の国土形成計画(全国計画)が報告され、人口減少下で持続可能な国土を支えるための地域管理構想、所有者不明の土地や空き家対策などとともに、デジタルとリアルが融合した人口10万人規模の地域生活圏構想が提唱されている。

 14年11月には「まち・ひと・しごと創生本部」が設置されて、人口長期ビジョンと総合戦略が打ち出された。そこでは人口減少に歯止めをかける「積極」戦略とともに、人口減少に対応するための「調整」戦略を推進することが明示された。静岡県でも同年12月に、筆者も加わった「人口減少問題に関する有識者会議」が、人口減少「抑制」戦略に加えて、人口減少社会「適応」戦略を重視した取り組みが必要であるとの提言を提出している。

 人口減少への適応というと、後ろ向きな、敗者の行動と受け取られるかもしれない。際限のない人口減少は、一国の消滅につながるからだ。しかし、人口を安定化させるには時間がかかる。現在の人口減少は、それを実現するために避けて通ることのできない〝一過程〟なのだ。

 将来の総人口と地域人口がどれくらいまで縮小するのか、それに見合った人口分布や土地利用が過去にはどうだったのかを考えてみることも必要だ。ただ、これは「昔に戻ろう」ということではない。産業構造の変化、科学技術の発展、交通手段やインフラの発達などによって、社会のあらゆるものがかつてとは異なっている。各地域がありたい姿を考えるにあたっては、こうした技術進歩を最大限活用しながら目指すべき社会像を描くべきだ。それはすなわち、21世紀の日本にふさわしい「新しい文明社会への転換」でもある。

 こうしたビジョンには前例となるモデルがない。だからこそ、既存の価値観にとらわれない若い世代の意見も取り入れ、新しいモデルを自分たちでつくればいい。そこでは今までになかったライフスタイルが提案されることもあるだろう。

 まだ何とかなると思っていては遅い。このままでは日本は劣化するだけである。楽観論ではなく、現実に即した議論を、今こそ本気で進めるべきだ。少子化と人口減少への適応は新たな未来を創る事業にほかならない。

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日本人なら知っておきたい ASEAN NOW
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