2023年10月4日(水)

インドから見た世界のリアル

2023年9月19日

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長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

モディ首相が見せた中国への態度

 しかし、ここ数年のインドの外交を見れば、習氏の欠席は、自然なことだったともいえる。20年に死傷者100人以上を出して以来、印中国境では、両軍が大規模にハイテク兵器を並べて対峙し、緊張状態が続く。そのため、インドのモディ首相は、習氏とは、対面では会わない方針をとってきた。当初は、中国が譲歩しない限り、多国間会議で、他の国々も含めた大きなテーブルでも、モディ首相は習氏に対面では会わない姿勢で、その後、若干中国の譲歩もあって、多国間では会うこともあるけれども、依然として、2国間では対面の会談をしない方針に変わっていった。

 それは、今年も続いた。今年、インドはG20だけでなく、上海協力機構の議長国でもあった。そこでは両国の亀裂が表面化した。上海協力機構の国家安全保障局長級の会談では、中国とパキスタンだけオンライン参加となった。上海協力機構の国防相会談では、パキスタンだけオンライン参加で、中国は対面で参加したが、その後の7月の上海協力機構の首脳会談は、首脳会談そのものがオンラインとなり、習氏は訪印しなかったのである。

 8月のBRICS首脳会談が南アフリカで行われた際、インドは少し方針を変えた。この時、モディ首相も、習氏も対面で参加し、印中2国間で会談したのである。

 そこでは印中国境情勢については、解決に努力することになった。しかし、中国はその直後に、自国の領土の主張を描いた地図を公表し、インドが自国領と考える地域が中国領となっており、両国の雪解けムードの兆候とみられた雰囲気は、一瞬で吹き飛んだのである。

 このような情勢を背景に、インドは、今回のG20でグローバルサウスの声を世界に届けることを掲げた。グローバルサウスの声を届ける先の「世界」とは、国際ルールを定める先進国、つまりG7のことである。つまり、インドは、グローバルサウスとG7のつなぎ役をかってでており、中国にとって面白いわけがなかった。

 このような状況を見れば、もし習氏がG20首脳会談のために訪印すれば、当然、心地よくない会議になる。印中国境については、インド側から激しい抗議がくるだろうし、インドが主導権をとって、G7とグローバルサウスを対中国対策で連携させようとするだろう。

 もはや習氏にとって、G20は、中国の威光を示す、心地よい場所ではなくなった。まさにモディ首相によって、今回、習氏はG20から追い出された、といえる。

グローバルサウスへの影響力拡大

 習氏を追い出したインドは、実際に、グローバルサウスで影響力を高めている。いろいろ問題を抱えながらも、努力を続けてきた賜物だ。例えば、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックでは、当初、ワクチンを各国に配って、貢献しようとした。その後、インド自身で感染者が増大し、提供できなくなったが、そういった貢献する意思と行動を示し始めたことが、インドの影響力の高まりを示している。

 特に、中国に対抗するための安全保障面での支援は、大規模なものになっている。以下の図は、インドが、中国が活動を活発化させているインド洋周辺、東南アジア、中央アジアで行った、軍事支援を図にまとめたものである。インドは、非常に大規模な軍事支援を展開するようになっており、海軍も寄港できる港の建設計画や、ミサイルや軍艦などの武器の供給、武器を使う要員の訓練や武器の整備なども行っている。

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