2024年5月20日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年9月25日

 「中国が弱体化した時、ベトナムに平穏が訪れ、中国が強国になるとベトナムに災いが及ぶ。今や災いのくる時代になった」と、あるベトナム人が数年前に語ったが、ベトナムでは多数意見であろう。ベトナムは、中国が主導する「一帯一路」やAIIB(アジア・インフラ投資銀行)に参加しているが、具体的プロジェクトは実施していない。

 ベトナムが特に恐れているのは、資源に富む南シナ海を中国が実効支配し、日本にとっても死活的に重要なシーレーンを封鎖するような事態である。中国は1974年に西沙諸島、1988年に南沙諸島6環礁をベトナムから奪っている。

 また、台湾には20万人を超えるベトナム人労働者、10万人以上の配偶者、約2万人の留学生が居住しており、台湾有事が発生すれば厳しい選択を迫られることとなる。

 一方で、中国は貿易総額ではベトナムの最大のパートナーであり、コロナ前の外国人観光客約1800万人の内、約3分の1は中国人であった。

 昨年10月、習近平総書記の3期目確定後、中国が初の国賓として迎えたのはチョン・ベトナム共産党書記長であった。また、バイデン氏の訪問直前(9月5日)に、中国は共産党中央対外連絡部長をベトナムに派遣し、チョン書記長と会談させ、両国共産党は中越関係の発展を最優先事項とする旨を確認した。中国は、数年来のベトナムと日米欧との関係強化を快く思っておらず、動きをけん制している。

変化してきた米国の方針

 米越間の外交関係は、1995年に樹立されたが、米国が安全保障分野でベトナム重視に転化したのは、2014年に中国が南シナ海で人工島を作り、軍事拠点化を進めて以降である。15年、米国は「航行の自由作戦」を始め、同年、チョン越共産党書記長は、現役の書記長として初めて訪米した。

 16年にはオバマ大統領が訪越して武器輸出禁止の全面解除を公表した。トランプ大統領もベトナムを重視したし、バイデン政権になってからもベトナム重視の姿勢は引き継がれている。

 米国のベトナム重視の背景には、地理的重要性の他、南シナ海問題に関して中国がアセアン分断工作を進めた際、ベトナムだけは毅然とした姿勢を維持したことから、対越信頼感が高まったこともある。また、安全なサプライ・チェーン構築の観点からも、ベトナムの重要性は大きくなっている。

 ベトナムにとって、中国の軍事的プレゼンスに対する唯一の抑止力は米軍であり、かつ、米国は最大の輸出市場でもある。更にベトナム人の対米感情は非常に良い。

 外務省が2021年に実施した調査(ASEAN10カ国)によると、現在最も重要なパートナーとして米国をあげた国は、フィリピンとベトナムの二か国であった。将来、究極の状況下でのベトナム国民の選択は明白であると思う。

   
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