2024年11月22日(金)

インドから見た世界のリアル

2023年9月26日

 ただ、インドにしてみれば、そう単純ではない。なぜなら、インドから見ると、西側諸国は過去、「現地の警察が頼りない」という理由で、各国の主権を侵害し、テロリストの暗殺や誘拐をしてきたという認識がある。

 特に9.11同時多発テロの後は、テロ対策がグローバルに活発化し、そのような事例が増えた。カナダのテロ対策が不十分で、テロの聖域になっているならば、インドが西側諸国と同じことをしたとしても、お互いさまではないか、という感覚がある。

選挙に向けたメッセージ

 問題は、インド政府の対応が、かなり強いものであることだ。まだ調査中の段階であるにもかかわらず、カナダ人のビザ発給の停止に踏み切っている。少し対応が先走りしすぎていないか。実は、その背景には、選挙があるものとも思われる。

 インドは今、2024年の総選挙に向け、激しい争いになっている。14年以降続いてきたモディ首相に対する人気は相当高いものの、新型コロナウイルス感染拡大以後、そしてロシアのウクライナ侵略以降、世界的な物価高になっている。

 インドの物価の上がり方は比較的抑えられているものの、選挙には一定程度影響するだろう。そのような環境の中で、与野党の非難合戦、つぶし合いが、選挙のルールを逸脱するレベルまで激化している。

 その選挙における非難合戦が激化していることが、外交に強い影響を与えている。そもそもインド国内の問題が外交に影響を与えるのは、インド人が世界中に住んでいるためである。

 インド国籍ではないものの、米国の副大統領や英国の首相、カナダの内閣の大臣たちもインド系であることをみれば、インド系が世界的に深く広がっていることは一目瞭然である。海外にいるインド人の意見は、国内の親戚・知人の判断に影響を与える。

 そのような環境の中で、インド政府は、インド国内にいるインド人に対して、カナダに強い対応に踏み切ったというメッセージを送りたくなるのである。「かつてインドを植民地にした西側諸国と、その西側諸国にしっぽを振ってテロを計画しているようなインド人たちが、インドの内政に干渉しようとしている。それを許すな」というメッセージである。そういったメッセージは、結局、インド国内のインド人たちの選挙での行動に影響を与え、与党有利に働くという思惑があるのだろう。

 今回、インドとカナダとの間で起きた問題は、今後も、同じような問題が起き得ることを示唆している。インドが国家として力をつけつつあることと、インド系移民が西側各国で影響力を増す中で、インド国内の問題が国際問題になりつつある。インドと西側諸国はどのような付き合いをしていくべきか、一種の相場観のようなものが求められてくるだろう。

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