2024年12月10日(火)

Wedge REPORT

2023年10月6日

 捕鯨問題の真相に迫り、世界各地から大きな評価を得たドキュメンタリー映画『ビハインド・ザ・コーヴ』を制作した八木景子監督が8年ぶりの2作目となる『鯨のレストラン』を完成させ、2023年秋、全国で上映が始まった。制作期間は3年。前作で描き切れなかった日本伝統の鯨食文化の魅力を伝え、『ビハインド・ザ・コーヴ』と同様、捕鯨や鯨食文化に携わる主要人物にインタビューして、ストーリーをまとめた。

宮城・鮎川の捕鯨基地でのクジラの引き上げ

 最新作は捕鯨問題の経緯を追いながらも、地球の生態系や限りある食資源をどのように保全したらよいかもわかりやすく捉えており、小中高生への教材としても活用できそうだ。今後、八木監督は世界展開も考えているといい、今回のロングインタビューで撮影秘話を教えてもらった。

八木監督(左)は最新作『鯨のレストラン』に、日本の食文化や地球の生態系の問題も込めている

鯨肉の文化、魅力に焦点

――1作目「ビハインド・ザ・コーヴ」の上映から8年ぶりの映画制作になります。いつごろから2作目を作ろうという構想があったのでしょうか?

八木 2作目の構想は以前からあったのです。1作目は多くの場所で上映され、私が舞台挨拶などで観客の方々から感想をうかがうと、「クジラの魅力を知りたい」「鯨食の大切さについても知りたい」という意見が多数聞かれ、次の機会にそうした要望に応えるような映画を作りたいとぼやっと考えていたのです。

 私の人生は偶然が重なってそれが運命のように動き出すことが多々あるのですが、今回の「鯨のレストラン」を作る契機になったのも、2020年に世界を襲ったコロナ禍でした。以前から、鯨食の魅力と日本が蓄積してきたクジラ研究の科学データを世に出さなくてはいけないと思っていて、そんな時に、常連だった東京・神田の鯨料理店「くじらのお宿 一乃谷」を覗きに行ったら、大将の谷光男さんが元気なくって辛そうにしていました。その光景を目の当たりにして大将を励ます映画を作ろうと思い立ったのです。

――同じクジラの映画ですが、まったく違った味わいで、1作目の続編としてもとても勉強になりました。

八木 前作は米国のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した「ザ・コーヴ」に反証する形の作品で、過激な団体シー・シェパードなどの反捕鯨派の主張と、捕鯨をしてきた日本側の立場を全面的にフォーカスしていて、鯨食の魅力をまったく伝えられていませんでした。縄文時代から始まった鯨食文化とは、日本という国や文化を表すそのものだと私は感じています。先祖たちは縁起物として鯨肉を食し、子どもの成長や商売繁盛などを願ってきた。

 しかし、その鯨食文化も1962年に捕獲量のピークを迎え、それ以降も消費が落ち込み、ピーク時の1%ぐらいになってしまいました。鯨食文化をぞんざいに扱うことで衰退してしまい、日本の国力も同じように失われていっているように感じています。

鯨ステーキ

 鯨肉は科学的に高たんぱく低コルステロールであることがわかっていて、多量に含まれる「バレニン」はスタミナ、オメガ3の油は、抗うつにも効果があるとされています。日本はストレス社会になってうつ病に悩む人も多いのですが、鯨肉は縁起に良いだけじゃなくて、実際に科学的な効果によって日本人の心と身体を支えてきたのですよね。現代の捕鯨は乱獲時代とは違って、環境的にもサステイナブルで日本人が世界に送り出した最高の「シロモノ」なのではないでしょうか?


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