2024年7月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年10月26日

 5月のタイの選挙で第一党となった前進党が強引に排除され、第二党のタイ貢献党が公約を裏切って軍部・王党派と手を握り、8月にタイ貢献党のセタ氏を首班とする内閣が発足した。そして、その直前にタクシン元首相が帰国し、さらに、国王が元首相の懲役が8年から1年に減刑する恩赦を与えた。結果的にタイでは、引き続き、軍部と王党派の影響下の支配が続いている。

 今回、タイ貢献党が公約を違えて軍部・王党派と手を結んだことは、同党の事実上の支配者であるタクシン元首相の帰国を実現するためであり、やはり、貢献党はタクシン元首相の私党だったと理解されている。

 そもそも、選挙の結果、貢献党が初めて第一党の座を明け渡したのは、軍部や王制という既得権益を嫌っていた層が貢献党から前進党に鞍替えし、これまで既得権益を批判する勢力も惹きつけていたタイ貢献党が、国民に既得権益の一員であると見なされたことを意味する。

 勘当されていたワチラロンコン国王の2人の息子の帰国も興味深い。国王は、過去、4回結婚し、3回離婚している。論説に身障者である唯一の子息とあるのは、3人目の王妃との間で生まれたティパンコーンラッサミチョト王子(18歳)のこと思われる。彼は学習障害があると言われている。

 これまで、この王子が王位を継ぐ場合は長女のパチャラキティヤパー王女が摂政となるとか、そもそも王女が自ら王位を継承するのではないかとも言われていた。パチャラキティヤパー王女は、検事やオーストリア大使も務めた才媛だ。

 しかし、昨年、犬の訓練中に突然倒れ、意識不明の重体となった。マイコプラズマへの感染と言われている。その結果、王位の継承について大きな不安が生じていた。

終わりの見えない民主化勢力対旧体制

 しかし、勘当されていた2人の息子が復権し、いずれかが即位すれば問題は解決するかと言えば、簡単ではないように思われる。とはいえ、軍部・王党派にすれば、自らの拠って立つ権威である王制が王位継承で混乱しては困るので、必死に何とかするのであろう。

 タイの民主化の問題は、古くて新しい問題である。過去にも血の日曜日事件(1973年)や暗黒の5月事件(1991年)のように民主化を求めた学生達が軍政と衝突し、弾圧されることは稀ではなかったし、タクシン首相がクーデターで追放された後、タクシン首相の復権と民主化を求めるタクシン派が軍部・王党派と度々流血の衝突を繰り返した。

 今回、民主化を求める層が貢献党から前進党に支持を移し、同党が第一党になることで、民主化勢力対旧体制という対立軸が明確化し、今後、民主化への動きが強まる可能性があるが、軍部・王党派もそう簡単には譲らず、そう簡単ではないであろう。

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