FA誌でコーネル大学のTamara Loos教授が、Foreign Affairsのウェブサイトの9月26日付けで掲載された論説‘The Thai Establishment Strikes Back’で、タイ貢献党が選挙公約に反して軍部・王党派と組んで組閣したことなど、最近のタイの政情を分析し、タイの若い世代は民主化を求めているので、いつまでも一部のエリートが国民を無視して密室で政治を決め続けられないだろう、と疑問を投げかけている。要旨は次の通り。
タイ貢献党(タクシン元首相が支配する有力野党)は5月の選挙の公約を破り、同党支持者が拒否する軍部や王党派の政党と連立を組んで組閣したが、タイ貢献党が仇敵と組んだ結果、タクシン元首相は15年間の国外追放から帰国した。
5月の選挙では、新参の進歩的な前進党が第一党となり、タイ貢献党は、第二党となった。両党は不敬罪を見直すと公約した。しかし、過去10年近くタイは軍部が支配しており、軍部は憲法を改正して軍部の協力無しには前進党が連立政権を組めないようにした。
前進党を支持した進歩派は期待を裏切られた。つまり、選挙の結果とは関係無く、軍事政権は貢献党と取引する事で支配を継続することになった。
タイ貢献党は不敬罪の見直しを公約していたが、軍の指導者がタクシン元首相の帰国を条件に取引したことは想像に難くない。国王がタクシン元首相の懲役を8年から1年に減刑する恩赦を出したことは、王室もこの取引を支持していることを示唆する。
ここ数カ月間、タイの王室は、王室のイメージ向上に努めている。8月には、ワチラロンコン国王に勘当されていた2人の息子が帰国した。彼らは、次男と三男で国王の2人目の夫人との間の息子である。
国王は、1996年に2番目の夫人と離婚し、夫人とその息子達に王族の称号を使うことを禁じたが、今回の彼らの帰国は、国王が後継者問題について対応しようとしているとの憶測を招いた。国王が認知している唯一の王子は身体障害者であり、長女は、1年近く意識不明状態だ。
来年の7月に国王は72歳の誕生日を迎える。現在、タイは軍部と王制を支持するグループと民主主義を支持するグループとの間で二極化しているが、目に見える形での後継者候補の帰国は、王制への支持を増し、体制を強化するための計算された決定であった。
多くのタイの有権者達は、一連の出来事に失望している。5月の選挙は大きな変革を期待させたが、結果的に現状維持派が優勢となった。
タイの将来についての重要な決定は、エリートたちが密室で決める状態が続いている。しかし、軍部や王室が、誰がタイを支配するのかについて、タイ国民の意見表明を拒否し続けることはできないだろう。
世代交代は進んでおり、若いタイ人は、政治のより大きな透明性と言論の自由を制約する法律の改正を求めている。